「よし、今回はあの洞窟だ。噂では奥に未開の部屋があるらしいぞ」ラーンが目を輝かせながら地図を広げる。イシェは眉間にしわを寄せながら、ラーンの肩越しに地図を覗き込んだ。「またそんな不確かな情報か？ いつも大穴が見つかるなんて思っていないわよ。それにあの洞窟はヴォルダンとの境界に近い。危険すぎる」
「大丈夫だ。俺たちにはテルヘルさんがいるんだろ？」ラーンが胸を叩く。イシェの視線がテルヘルに向いた。彼女は影のある表情で地図を眺めている。「情報源は確かなようだ。ヴォルダンの監視が手薄な場所らしい。だが、注意が必要だ」テルヘルは鋭い目を細めた。「あの洞窟には以前、ヴォルダンとエンノル連合の間に起きた抗争の際に戦いが繰り広げられたという記録がある。遺物だけでなく、危険な罠が残されている可能性もある」
ラーンの顔色が少し曇る。「そんな…でも、大穴が見つかるかもしれないって思うとワクワクするんだ！」イシェがため息をついた。「いつも通り、ラーンは何も考えていない。テルヘルさん、本当に大丈夫ですか？」テルヘルは静かに頷き、腰にさした短剣を軽く触れた。「心配するな。私は準備万端だ」
三人はビレーを出発し、山道へと足を進めた。日差しが射し込む森の中を進むにつれ、空気が重くなっていった。イシェは背筋がゾッとするような感覚を覚えた。ラーンの無邪気さに反して、テルヘルが抱く復讐の念は深く、そして危険なものだった。イシェは彼女を信じたい気持ちと、どこかで恐怖を感じていた。
洞窟の入り口に近づくと、冷たい風が吹き付け、不気味な影が壁に揺らめいた。ラーンの表情が少し硬くなった。「ここからは俺たちが先導する」テルヘルが鋭い視線で周囲を観察しながら言った。イシェはラーンと二人で肩を並べて洞窟へ入った。彼らの背後からテルヘルの足音が響き渡り、三人は深い闇へと消えていった。