ラーンの粗雑な斧の一撃が石壁を粉砕した。埃が立ち込める中、イシェは眉間に皺を寄せながら「もっと丁寧に扱えばいいのに…」と呟いた。ラーンは苦笑いを浮かべ、「宝探しの醍醐味だろ? 冒険だ!」と豪快に笑う。
だが、その言葉の裏には、いつも通りの余裕がないように見えた。テルヘルが提示した報酬は高額だったが、その代償も大きかった。今回の遺跡はヴォルダンとの国境に近い場所にあったのだ。危険度が高いことは言うまでもない。
イシェは静かに周囲を警戒しながら、地図を広げた。「ここからは、狭い通路が続くようだが…」と呟く。ラーンの斧で崩した壁の向こうには、確かに暗くて狭い通路が広がっていた。テルヘルは鋭い目で通路を見つめ、「何かを感じる…用心しろ」と低く告げた。
「またお前の勘かい?」ラーンは少し不安げに言ったが、イシェはテルヘルの言葉を信用していた。彼女はいつも通り、冷静かつ慎重に動き始める。
通路を進むにつれて、空気が重くなっていった。湿った石の匂いと、かすかな腐敗臭が混ざり合い、不気味な雰囲気を醸し出している。ラーンの足音は重く、イシェの小さな足音はほとんど聞こえない。テルヘルは常に周囲に意識を向け、わずかな変化にも敏感に反応していた。
その時、通路の奥から何かが動いた。かすかな音が聞こえたかと思うと、すぐに消えてしまった。イシェは一瞬で状況を判断し、「罠だ!」と叫んだ。ラーンは反射的に剣を構えたが、すでに遅かった。
通路の壁から鋭い棘が飛び出してきて、ラーンの足を貫いた。痛みにうめき声を上げるラーンに、イシェは素早く駆け寄り、彼の傷口を締め付けた。
「大丈夫か?」イシェの声は冷静だったが、震えていた。「お前は…!」と怒りの表情を浮かべるラーンだったが、イシェの厳しい視線に言葉を飲み込んだ。テルヘルは冷静な表情で周囲を警戒しながら、「罠を仕掛けたのは誰だ…」と呟く。
この遺跡には、単なる財宝を求める者だけでなく、何か別の目的を持つ者がいるのかもしれない。そして、その目的がラーンたちの命を狙っている可能性もある。イシェはそう感じた。彼女たちの技量を試す試練が始まったのだ。