ラーンの粗野な斧の音が、遺跡の薄暗い通路にこだました。石塵が舞い上がり、イシェの鼻をくすぐった。
「おい、待てよ!」
イシェは慌ててラーンの後を追いながら、足元に置かれたランプを揺らした。「あの石柱、何か刻まれてないか確認してから進もうよ。」
ラーンの背筋から聞こえる低い笑い声にイシェはため息をついた。いつもこの調子だ。計画性ゼロで、危険を顧みない。それでも、彼には仲間を信じる熱い心がある。それがラーンを、そして彼らを引き寄せ続ける理由だった。
「ほら、何もないだろう。早く宝探しの場所に行きたいんだ!」
ラーンの言葉は、まるで子供の駄々っ子のようだった。イシェは苦笑しながら、石柱に近づいた。確かに何も刻まれていないようだが…
その時、イシェの足元が崩れ始めた。彼女はバランスを崩し、叫び声を上げた。
「イシェ!」
ラーンの声だけが、響き渡った。
その時、テルヘルが駆け寄り、イシェの手をつかんだ。「大丈夫だ。落ち着いて。」
彼女の冷静な声に、イシェは少し安心した。テルヘルはいつも冷静沈着で、イシェには頼りになる存在だった。だが、その冷静さの裏には、何か隠されたものがあるようにも感じられる。
「あの石柱…何か変だぞ」
ラーンが叫んだ。イシェは振り返ると、石柱に奇妙な模様が浮かび上がっていることに気がついた。まるで、そこに何かが宿るように。
「これは…」
テルヘルは目を細めながら呟いた。「古代の呪文だ。」
彼女の顔色から、イシェは不吉な予感を抱いた。