ラーンの大柄な体が遺跡の入り口に消えていくと、イシェはため息をついた。埃っぽく薄暗い通路に続くその入口はまるで巨大な獣の口のように見えた。「また、行き当たりばったりか？」テルヘルが冷めた声で言った。イシェは小さく頷く。ラーンの計画性がないことにはいつも頭を抱えていた。
「今回は違うぞ！」ラーンの声が遠くから響いてきた。「何か見つけたみたいだ！」イシェはテルヘルの視線を感じながら、ゆっくりと通路へ足を踏み入れた。石畳の上を慎重に歩き、やがてラーンの姿が見えた。彼は興奮気味に、壁に埋め込まれた石板を指さしていた。
「これは…！」テルヘルが駆け寄ると、石板には古代の文字で何かが記されていた。「これはヴォルダンの軍勢がかつてこの遺跡を占領した記録だ。そして…ここに、彼らの弱点に関する記述があるかもしれない」
イシェはテルヘルの言葉を聞いて驚きを感じた。ヴォルダンへの復讐心から生まれたテルヘルの執念は、彼らを危険な場所に導くこともあった。しかし、今回は違う。この遺跡の謎を解き明かすことは、単なる財宝探しの域を超えたものになるかもしれない。
「打破するための鍵…それがここに…」テルヘルがつぶやいたその瞬間、遺跡の奥深くから不気味な音が響き渡った。それはまるで、何者かの咆哮のようだった。ラーンは剣を抜き、イシェも準備を始めた。三人は互いに顔を見合わせ、緊張感が張り詰めた空気を共有した。
「さあ、行くぞ」テルヘルが先頭に立って暗い通路へと進み出した。イシェはラーンの後ろを歩きながら、小さな祈りをささやいた。この遺跡が彼らを破滅に導くのか、それとも希望の光を見せてくれるのか。それはまだ誰にも分からなかった。