「おい、イシェ、どうだ？今日はいい感じの予感するんだ！」ラーンが目を輝かせながら、錆びた扉に手をかけた。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の背後から「またそんなこと言わないでよ。あの扉、開けるのに一時間以上かかったじゃないか。それに、さっきの罠には引っかからなかっただけましだ」と呟いた。ラーンの楽観的な性格と、イシェの慎重さはいつも対照的だった。
テルヘルは二人がやり取りをする間、静かに周囲を警戒していた。彼女はヴォルダンの兵士が潜伏している可能性を常に考えている。この遺跡探索は単なる財宝探しではない。彼女にとって、それは復讐のための情報収集でもあるのだ。ラーンとイシェにはその事情を打ち明けていない。彼らは、ただの雇い主だと思っているだろう。
「よし、開いたぞ！」ラーンの力強い言葉と共に扉が開き、埃っぽい空気が流れ出した。薄暗い通路が広がっている。イシェは懐中電灯の光を当てながら慎重に進んでいく。ラーンは後をついて行こうとするが、テルヘルに制止された。「待て。まずは周囲を確認する必要がある」とテルヘルは静かに言った。彼女は壁に沿って歩いて行き、指先で石を触り、音色を確かめた。
「何かあるのか？」イシェが尋ねた。テルヘルは首を横に振った。「いいえ。ただ用心するに過ぎない」と答えた。しかし、彼女の心はざわついていた。この遺跡には何かが潜んでいるような気がしたのだ。
通路を進んでいくうちに、壁に奇妙な文字が刻まれていることに気付いた。イシェが近づいて読み解こうとした瞬間、床から鋭い棘が飛び出した。ラーンが咄嗟にイシェを押し倒し、棘は彼の手をかすめた。「やれやれ、また罠か！」ラーンは苦笑いしながら言った。しかし、イシェは顔色が悪くなっていた。「これは違う。この文字...ヴォルダン軍の紋章だ」
テルヘルは息を呑んだ。彼女は予感した。この遺跡にはヴォルダンの秘密が隠されている可能性が高い。そして、それは彼女にとって、復讐に近づくための重要な手がかりになるかもしれない。だが、同時に危険な罠でもあるのだ。