ラーンが寝息を立てながら眠る横で、イシェは焚き火の光に照らされたテルヘルの顔を見つめていた。彼女はいつもと様子が違った。鋭い眼光が影を落とすように、どこか寂しそうだった。
「どうした?」イシェが声をかけると、テルヘルは一瞬驚いたような表情を見せた後、すぐにいつもの冷静さを装った。
「特にないわ。疲れただけよ」
だが、イシェには嘘だと分かった。テルヘルは最近、夜遅くまで手紙を書き続けている。誰かに宛てたものなのか、それとも自分の記録なのか。彼女は決してその内容を明かさなかった。
「あの手紙は?」イシェは思わず口に出してしまった。
テルヘルが顔を上げると、焚き火の炎が彼女の瞳を赤く染めていた。「私の人生を左右する手紙よ」
イシェは言葉を失った。テルヘルの過去を知る者は少ない。ヴォルダンに全てを奪われたという彼女の言葉だけが真実だった。しかし、その「全て」とは何なのか。そして、あの手紙には何が書かれているのか。
「いつか全てを話してやるわ」テルヘルは言った。「でも今はまだ言えないの」
イシェは頷いた。彼女はテルヘルの秘密を尊重する決意をした。だが、同時に、彼女が抱える苦しみと怒りを解放したいという気持ちが強くなった。
次の遺跡探索では、ラーンのいつものように無茶な行動にイシェが呆れながらついていく。しかし、その奥底には、テルヘルを守りたいという気持ちがあった。あの手紙の内容を知ることで、彼女を救うヒントが見つかるかもしれない。そして、いつか、テルヘルが笑顔で手紙を燃やすことができる日が来ることを願っていた。