ビレーの朝焼けが、まだ薄暗い遺跡の入り口を照らしていた。ラーンはいつものように、寝癖を直さずに剣を腰につけ、イシェの用意を待っていた。
「準備はいいかい？」
イシェは小さく頷き、地図を広げた。「今日はあの崩れた塔から入ることにしよう。テルヘルが調査した資料によると、地下には広大な空間があるらしい」
ラーンの顔に興奮の色が浮かんだ。「よし、大穴が見つかるかもな！」
しかし、イシェは眉間に皺を寄せた。「無理だ、ラーン。遺跡探索はそう簡単じゃない。ましてやテルヘルが言うような『大穴』なんて…」
「大丈夫だ、イシェ。俺たちならなんとかなるさ」
ラーンの自信に押されるように、イシェも深く息を吸い、立ち上がった。三人は互いに言葉少なげに遺跡へと歩み始めた。
崩れた塔の入り口は暗く、湿った冷たい空気が流れ出していた。テルヘルが用意したランタンの火が、壁を這う影を揺らすだけで、奥は深い闇に包まれていた。
「手探りで進もう」
イシェの声が響き渡った。ラーンの視線は、前方に伸びる漆黒の闇に吸い込まれていくように感じた。
一歩、また一歩。足音だけが響く静寂の中で、彼らは未知なる空間へ踏み込んでいった。
石畳の上を慎重に進むイシェの手が、突然何か硬いものに当たった。
「あれ？」
イシェが声を上げると、ラーンも駆け寄ってきた。「何だ？」
テルヘルはランタンを近づけ、石畳の隙間から覗き込んだ。
「これは…壁画だ」
薄暗い光の中で、壁に描かれた線刻が見えた。複雑な模様と記号、そして何かを表現しているかのような奇妙な図形がそこに存在していた。
「まさか、ここにこんなものがあるとは…」
イシェは目を丸くした。ラーンも興味津々に壁画を眺めていた。
しかし、テルヘルは眉間に皺を寄せた。「これは…ヴォルダン帝国の紋章だ」
彼女の言葉に、二人の表情が曇り始めた。
「ヴォルダン…？」
ラーンの声は小さく震えていた。イシェも、何か嫌な予感を感じていた。
彼らは、手探りで未知の世界を探っていたつもりだった。しかし、その先に待ち受けていたものは、想像を絶する真実だったのかもしれない。