ラーンの粗雑な斧の音がビレーの石畳をこだました。イシェは眉間に皺を寄せながら、振り返らずに言った。「またあの酒場か? 今日の収入で精一杯じゃないだろう?」
「おいおい、イシェ。今日は特別だ。テルヘルが手厚い報酬を約束したんだぞ」ラーンは陽気に笑って言った。彼の視線は遠くにある酒場ではなく、ビレーの郊外に広がる遺跡群へと向かっていた。
イシェはため息をつきながら、振り返った。「あの遺跡は危険だって何度も言ったじゃないか。一体何がそんなに特別な報酬なのか?」
「さあな。テルヘルが言うには、あの遺跡には『手招き』があるらしいんだ」ラーンの目は輝いていた。「俺たちはそれを手に入れるために生まれたようなものだ!」
イシェはラーンの熱意に目を背けようとした。しかし、彼女の心にも僅かな好奇心が芽生えていた。テルヘルの言葉にはいつも比喩が混じっているのだが、今回は少し違った。まるで何かを隠しているかのように、意味深な言い回しだった。
「手招き」とは一体何なのか? イシェは深く考え込むことを避けながら、ラーンの後をついてビレーの街を出た。夕暮れの薄暗い空の下で、三人は遺跡へと向かう。テルヘルが約束した報酬と、遺跡の奥底に眠る謎めいた「手招き」の存在が、彼らの心を揺さぶっていた。