「よし、今日はあの崩れた塔だな!」ラーンの声がビレーの朝の静けさを突き破った。イシェはため息をつきながら、粗末な食卓の片隅で朝食を摂っていた。「また遺跡か。あそこは手垢が酷くて嫌だぞ」
「そんなこと言わずに、さあ準備だ!」ラーンはイシェの言葉を無視して、剣を腰に携え始めた。「今日はテルヘルさんが高い報酬を払ってくれたんだろ?大穴が見つかる予感しかしない!」
イシェはラーンの無茶な行動に頭を抱えた。テルヘルが遺跡探索を依頼する理由は、ヴォルダンへの復讐を果たすためにある程度の知識が必要だからだ。そのために彼女は様々な遺跡を探し求めているのだが、目的達成のための手段を選ばないため、イシェは彼女に不信感を抱いていた。
「準備はいいか?」テルヘルは鋭い眼光で二人を見下ろした。「あの塔には手強いトラップがあるらしい。注意しろ」
崩れた石畳を進む三人。ラーンの興奮とイシェの慎重さとは対照的に、テルヘルは冷静に周囲を観察していた。彼女は遺跡探検はあくまで手段であり、真の目的であるヴォルダンへの復讐を果たすために必要な情報を得ることが最優先だった。
塔の中は埃っぽく、薄暗い光が差し込むだけで不気味な雰囲気に包まれていた。壁には剥げ落ちた絵画が残り、かつて栄華を極めた文明の痕跡を感じさせた。しかし、その美しさの裏には、手垢で汚れた石畳や錆び付いた武器が散らばり、残酷な歴史を物語っていた。
「ここだ」イシェが崩れかけた壁に手を当てた。「この壁の奥にあるはずだ」
ラーンは興奮気味に壁を叩き始めた。「よし、開けろ!」
しかし、壁から突然、鋭い音が響き渡り、ラーンの腕には深い傷が刻まれた。
「罠だ!」イシェは叫びながら、ラーンを後ろに引いた。
テルヘルは冷静さを失わず、壁の隙間から覗き込んだ。「手垢で覆われている…このトラップは、以前誰かが触れた際に作動したようだ」
ラーンの傷口は深かったが、命に別条はないようだった。イシェは安堵しながら、彼を支えた。「大丈夫か?」
ラーンは苦痛に顔を歪めながら、「ああ、なんとか…」と呟いた。
テルヘルは冷酷な表情で言った。「この遺跡は手垢で汚れている。誰かが先にここに来て、罠を仕掛けていったようだ。」
イシェの顔色が変わった。「まさか…ヴォルダンの人間が?」
テルヘルは頷き、「そうかもしれない」と答えた。彼女はヴォルダンへの復讐を果たすために、あらゆる手段を使う覚悟を決めていた。