ラーンの大笑い声がビレーの喧騒に混ざり合った。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の背後から小さくため息をついた。今日もまた、ラーンが遺跡で手に入れた「貴重な遺物」はただの錆びた金属片だったのだ。
「ほら、イシェ!見てくれよ、これはきっと古代の王家の紋章さ!」
ラーンの瞳は輝き、興奮気味に金属片を掲げた。イシェはため息をつきながら、その実態を見極めた。「ラーン、あれはただの錆びた鍋の蓋だよ。それに、王家の紋章なんて、遺跡で何個も見たことあるわ」
「違うんだ!今回は違う!」
ラーンの興奮は抑えようがない様子だった。イシェは諦めて微笑んだ。この男がいつまでも夢を追い続ける姿を見ているうちに、自分にも少しだけ希望が芽生えてくるような気がした。
その時、テルヘルが近づいてきて、鋭い視線で金属片を覗き込んだ。「面白いものですね。これは単なる鍋蓋ではないかもしれません」彼女の口調は冷静ながらも、何かを察知した様子だった。
ラーンとイシェは驚いた。テルヘルの言葉にはいつも重みがあった。「何を知っているんだ?」とラーンが尋ねると、テルヘルは薄暗い瞳を輝かせた。「これは、ヴォルダン王家の紋章ではありませんか?私はかつて、ヴォルダンの宮殿で似たような紋章を見たことがあります。あの紋章は、王家の中でも特別な存在を示すものでした」
ラーンの顔色がパッと明るくなった。「そうなのか!?じゃあ、これはもしかしたら…」
「可能性は十分にあります」テルヘルは冷静に言った。「この金属片が真偽を確かめるには、更なる調査が必要です。そして、もしこれが本物であれば…」彼女の目は鋭く輝き、言葉はゆっくりと紡がれた。「ヴォルダンに隠された真実が見えてくるかもしれません」