「よし、入ろう!」
ラーンの豪快な声がビレーの遺跡入り口にこだました。イシェは彼の後を少し遅れて、テルヘルが用意した古い地図を確かめながら続いた。遺跡内部は薄暗く、湿った空気が鼻腔をくすぐる。石畳の床には苔が生え、崩れかけた壁からは風だけが吹き抜けていく。
「ここは…?」イシェが地図と照らし合わせる。「この分岐点から先は三つのルートに分かれるはずだ」
「どれを選べばいいんだ?」ラーンが不機嫌そうに言った。「どれも同じに見えてくるぜ」
テルヘルは冷静に周囲を眺めた。「迷宮のような構造になっている。それぞれのルートに仕掛けがある可能性が高い。慎重に進まなければ」
イシェは地図を広げ、複雑な経路図を指さした。「このルートは急勾配だが、比較的安全らしい。一方、ここは罠が仕掛けられている可能性が高い…そして、ここには…」
「おいおい、イシェ、そんなに細かく説明する必要ないだろ」ラーンが不機嫌そうに言った。「俺たちは遺跡探検だ。冒険だぜ!危険を冒すのが醍醐味だろう?」
テルヘルはラーンの言葉に少しだけ眉間にしわを寄せた。しかし、彼女はすぐに冷静さを取り戻した。「ラーンさんの考えも理解できます。しかし、今回は時間との勝負です。ヴォルダンからの追っ手はいつ現れるか分かりません。効率的に目標物を確保する必要があるのです」
イシェはテルヘルの言葉を聞いて頷いた。「確かに、時間制限がある以上、無駄なリスクを冒す必要はない」
ラーンの無謀な行動を牽制し、イシェの慎重さを尊重しながら、テルヘルは戦術的な思考で最善のルートを選択する。それは、単なる遺跡探索ではなく、ヴォルダンからの逃亡という壮絶な戦いの始まりだったのだ。