ラーンが石の扉を押し開けた瞬間、冷たい風が吹き込んできた。イシェは背筋が凍りつくのを感じた。薄暗い遺跡内部は、まるで巨大な獣の口を開けたかのようで、深い闇が彼らを飲み込みそうだった。「ここか…」テルヘルが呟き、小さなランプを点けて通路に光を灯した。壁には奇妙な模様が刻まれており、イシェは不吉な予感に駆られた。
「よし、俺たちが先頭だ!」ラーンはいつものように無邪気に笑って先へ進もうとした。だが、テルヘルが彼の腕を掴んだ。「待て、ラーン。ここは様子を見る必要がある」彼女の瞳には冷ややかな光が宿っていた。
彼らは慎重に遺跡の奥へと進んでいった。床には崩れ落ちた石像が転がり、壁には古びた文字が刻まれていた。イシェは、この遺跡がかつて栄華を誇った文明の残骸であることを肌で感じ取っていた。だが、同時に、何か恐ろしいものを感じ取っているようにも思えた。
突然、床から不気味な音がした。ラーンとイシェが振り返ると、テルヘルが剣を抜き、戦いの構えを取っていた。「何だ?」ラーンの声が震えていた。その時、壁の影から巨大な影がゆっくりと現れた。それは、まるで石でできた巨人だった。その目は赤く燃えるように輝き、口からは獣のような唸り声が漏れていた。
イシェは息をのんだ。この遺跡の奥底に眠っていたものは、想像を絶する恐怖だった。ラーンの顔色は青ざめ、剣を握りしめた。テルヘルは静かに言った。「逃げろ、二人とも!俺は遅せられる」その言葉と共に、彼女は巨人に立ち向かった。
イシェは振り返らずに走り出した。背後から聞こえてくる轟音と巨人の咆哮が、まるで戦慄の鼓動のように彼の心を打ち砕いていった。ラーンもイシェの後を走り、振り返ることもなく遺跡から逃げていった。彼らは命拾いをしたのだ。だが、その恐怖は彼らを永遠に苦しめるだろう。