ビレーの酒場「荒くれ者の休暇」は、いつもより賑やかだった。原因は明らかだ。ラーンとイシェのテーブルには、今にも崩れそうな山ほどの銀貨が積まれていた。
「おい、ラーン!一体何があったんだ?」
酒をぐいっと飲み干す男の声に、ラーンは得意げな笑みを浮かべた。
「大穴だったぞ!あの遺跡の奥深くで、見つけたんだ!」
イシェは眉間にしわを寄せながら、銀貨の山を見つめた。
「確かに今回は良かったけど、あれが続くとは限らないだろう。それに、あの遺跡はヴォルダンの兵士たちが頻繁に訪れているらしいぞ。次に行くのは危険だ」
ラーンの顔色が少し曇った。イシェの言う通りだった。だが、目の前の銀貨の山は、彼を夢中にさせる力を持っていた。
「大丈夫だ。俺たちにはテルヘルがいるんだろ?彼女が道案内をしてくれるさ」
ラーンはそう言って、杯を片手に立ち上がった。すると、背後から冷たい声が響いた。
「道案内はする。だが、その代償はきちんと支払う必要があるわ」
テルヘルが鋭い視線でラーンを見つめていた。彼女の赤い瞳には、冷酷さと狡猾さが宿っていた。
「この銀貨の山は、まだ半分も使ってないだろう?俺たちとテルヘルの契約通りだ」
ラーンの言葉に、イシェはため息をついた。ラーンはいつも、目の前の利益だけを見ていた。だが、テルヘルは違う。彼女には、もっと深い目的があった。そして、その目的を達成するために、彼女はラーンを利用しようとしていた。
「いいだろう。今回はこれで許す」
テルヘルがそう言うと、ラーンの肩に手を置いた。その瞬間、イシェは不吉な予感を抱いた。銀貨の山は、彼らの運命を変えるものになるだろう。そして、その結果が、必ずしも良いものではないかもしれないと感じたのだ。