ラーンの粗雑な剣振りが埃を巻き上げ、イシェの鼻腔を直撃した。「おい、ラーン！少しは気を付けてよ！」イシェは顔をしかめながら、埃を払いのける。ラーンは苦笑しながら、「ごめん、ごめん。でもさ、この遺跡、何かある気がするんだ。ここら辺に何か隠されてるんじゃないか？」と、目を輝かせる。
「またそんなこと言ってる」イシェはため息をついた。「この遺跡、もう何年も探してるけど、まだ何も見つかってないじゃないか。大穴なんて、ただの夢物語だ」
ラーンの無謀さにイシェはいつも呆れていた。しかし、彼の熱意には心を打たれるものがあり、結局はついて行くことになる。
その時、背後から冷たく響く声がした。「本当に何も見つからないと思ってるの？」
テルヘルが鋭い視線で二人を睨みつけながら言った。「この遺跡には、ヴォルダンが隠した秘密がある。私はそれを手に入れるためだ」彼女の言葉は氷のように冷たい。
ラーンはテルヘルの目的を知っていながらも、彼女に同行する理由を理解できなかった。イシェも同様だった。だが、テルヘルが持つ力と知識が必要不可欠であることは認識していた。
「よし、わかった。今日はここまでだ。明日から本格的に調査を始めよう」テルヘルはそう言い残し、遺跡の外へ出て行った。
イシェはラーンの顔色を伺った。「どうする？本当にあの女についていくのか？」
ラーンは深く考え込むことなく、「ああ、行くよ。彼女が言うように、何かがある気がするんだ」と答えた。彼の目は、確信に満ち溢れていた。だが、イシェには、その瞳の中に、どこか不安を感じさせるものがあった。
日が暮れ始め、ビレーの街灯が灯り始めた頃、テルヘルはラーンとイシェを連れてある酒場にやってきた。賑やかな店内で、三人は静かに酒を飲んでいた。
「ヴォルダンは、私の全てを奪った」テルヘルは突然、静かな声で言った。「復讐のために、私は彼らに仕返しをする。そして、この遺跡がその鍵となるのだ」
彼女の言葉に、ラーンとイシェは言葉を失った。テルヘルは自分の過去を語るのをためらっていたようだが、何かを吐き出すように言ったのだ。
「ヴォルダンは、私の家族を殺し、故郷を焼き払った。私は生き延びたものの、全てを失った」
テルヘルの目は怒りで燃えていた。「そして、私は彼らを打ち倒すために、あらゆる手段を使う覚悟だ。たとえそれが、あなたたちの人生を危険にさらすことになっても」
ラーンの表情が曇り、イシェは深く考え込んだ。二人は、テルヘルが抱える深い憎悪を感じ、憤激した。彼女が復讐のためにどんなことをするのか、想像すらつかない。しかし、同時に、彼女の決意を否定することもできなかった。