ラーンが石化した遺物の破片を手にした時、地響きがビレーを襲った。イシェの顔色が変わった。「あの遺跡、また崩れ出した？」ラーンの脳裏には、過去に何度も経験した光景が蘇る。崩落する遺跡、逃げ惑う人々、そして轟音と共に全てを飲み込む塵埃。その時もイシェは冷静に、彼を引っ張って逃げた。
だが、今回は違う。石化した遺物の破片から、何かが放たれたのだ。空中に漆黒の光が渦巻き、不気味な音を立てて広がる。イシェはラーンの腕を引き、「逃げるんだ！」と叫ぶ。その時、テルヘルは剣を抜いた。「逃げない。これはチャンスだ」彼女の瞳に、狂気じみた光が宿っていた。ラーンは戸惑う。いつも冷静なテルヘルが、こんな表情を見せるのは初めてだった。
崩壊する遺跡の入り口から、黒い影が這い出てきた。それは巨大で、不規則な形をしている。まるで、闇そのものが具現化したかのようだ。イシェは恐怖で声を失った。ラーンは剣を構えた。「行くぞ、イシェ！」彼の言葉に、少しだけ力が戻った。
テルヘルは黒い影に向かって突進する。剣が光り、影を切り裂く。しかし、影は再生する。まるで、切り裂かれた細胞が分裂するように。ラーンの攻撃も無駄だった。イシェは絶望的な表情を見せる。「もうダメだ…」その時、テルヘルが叫んだ。「ラーン！お前が力を解放すれば！」
ラーンは混乱した。「何のことだ？」「お前の中に眠る力！今こそ解放する時だ！」テルヘルの言葉に、ラーンの心の中で何かが揺さぶられる。彼は自分の力について何も知らなかった。しかし、今、この場で、イシェを守るために、何かをしなければならないと感じた。
ラーンの体から光が放たれ、遺跡全体を照らした。黒い影は光に怯むように後退する。そして、ラーンの目の前には、巨大な剣が現れた。それは、彼が今まで見たことのない、圧倒的な力を持つ剣だった。ラーンは剣を握りしめ、黒い影に向かって叫んだ。「お前を倒す！」
激しい戦いが始まった。ラーンの剣が影を切り裂き、影は再生する。繰り返される攻防。イシェは二人が戦う様子を見つめながら、涙を流していた。彼女は、ラーンがどんな犠牲を払うのかを知っていた。そして、その犠牲が無駄にならないように、彼女は決意した。
戦いが終わる時、ラーンの姿は既に消えていた。残ったのは、イシェとテルヘル、そして崩れかけた遺跡だけだった。イシェは、ラーンの最後の言葉が耳にこだました。「お前を守りたかった…」彼女の涙が頬を伝い、地面に落ちた。それは、希望と絶望、そして慟哭の涙だった。