ラーンの大斧が石壁を切り裂き、埃が舞った。奥から冷たい風が吹き抜けた。
「よし、ここだ!」
ラーンは興奮気味に言った。イシェは眉間に皺を寄せながら周囲を警戒した。いつも通りのことだが、今回は何かが違う気がした。
「何だかしんどくないか?」
イシェが呟くと、テルヘルも小さくうなずいた。彼女の顔色は悪く、額には冷たい汗が滲んでいた。
「何かあったのか?」ラーンの問いかけに、テルヘルは不快な表情で言った。「いいえ…ただの疲労だ」
だが、イシェは彼女の言葉に嘘を感ぜずにはいられなかった。テルヘルの目は、かすかに赤く光っていたのだ。
遺跡の奥へと進むにつれ、その異様な感覚は強まった。壁から滲み出す湿気、不気味な沈黙、そしてどこからともなく漂ってくる甘い匂い…。イシェは背筋を寒気に走らせた。
「何か変だ…ここは危険だ」
イシェの言葉に、ラーンもようやく警戒心を抱き始めた。だが、その時だった。壁の奥深くから、不気味な呻き声が響き渡った。
ラーンの顔色が変わった。
「何だあの音は…」
呻きは次第に大きくなり、壁一面に広がっていく赤い光と共に、何者かの影が壁を這い上がるように現れた。それは人型だったが、皮膚は腐敗し、骨がむき出しになっていた。目は真っ赤に燃え盛っていた。
「これは…!」
イシェの声が震えた。彼女はかつて見た書物で、この恐ろしい存在のことを知っていた。
「感染者…!」