ラーンが巨大な石の扉を押し開けた瞬間、埃と冷気が充満した。イシェは咳き込みながら懐中電灯を点け、薄暗い遺跡内部を照らそうとした。
「いつも通りだな」
ラーンの声が響く。イシェは彼に苦笑する。確かにラーンが言うように、この遺跡も他の遺跡と大して変わらない。埃っぽい空間、崩れそうな石造りの通路、そして何よりも、何もない。
「何かあったらすぐに知らせてくれよ」
テルヘルが後ろから言った。彼女はいつも冷静で、周囲を警戒しながら歩いている。イシェは彼女の鋭い視線を感じながらも、自分の懐中電灯を前方に進めた。
「おい、イシェ、見てみろ!」
ラーンの声がする。イシェが駆け寄ると、ラーンが壁に手を当てて何かを指さしていた。壁には複雑な模様が彫られ、その中心には小さな石の箱があった。
「宝箱か?」
イシェは目を輝かせた。しかし、テルヘルは眉間に皺を寄せた。
「不自然だ。こんな場所に宝箱が置いてあるとは考えにくい」
彼女は慎重に箱に触れようとした。その時、イシェは何かを感じた。壁の模様、まるで…
「待て!」
イシェが叫んだ瞬間、壁から光が放たれた。石の箱が割れ、中からは小さな水晶球が飛び出した。水晶球は空中に浮かび、ゆっくりと回転しながら光を放ち始めた。
その光は奇妙な模様を作り出し、壁に描かれた模様と重なり合うように変化した。イシェは息をのんだ。これは単なる宝箱ではなかった。何か別のもの、何か…愛玩する対象のようなものがここに存在していたのだ。