「よし、今回はあの崩れた塔だ!噂には、最上階に王家の墓があるらしいぞ!」
ラーンの熱気に満ちた声は、イシェの耳にはいつも通りの騒音だった。だが、彼の目は、いつもより少し輝いていたように見えた。
「またそんな話を…」イシェはため息をつきながら、剣を腰に固定した。「あの塔は崩落寸前じゃないか?危険すぎるぞ」
「大丈夫だ!俺が先導するから安心しろ!」ラーンは豪快な笑みを浮かべ、石畳の上を軽やかに駆け出した。イシェはため息交じりに彼を追いかけた。
テルヘルは二人のやり取りを静かに見守りながら、地図を広げた。「あの塔には興味深い記録が残っているようだ。王家の墓だけでなく、ある種の儀式が行われていた可能性もある」彼女は冷静な声で言った。
ラーンの顔色を伺うように、イシェは「儀式…?」と呟いた。
「詳細については、遺跡から持ち帰った遺物次第だ」テルヘルは意味深に微笑んだ。イシェは彼女の言葉の裏にある何かを感じ取ったが、ラーンの無邪気な笑顔を見て、疑問を押し殺した。
塔の内部は暗く湿っていた。崩れた天井からは雨水が滴り落ち、足元は滑りやすかった。ラーンは懐中電灯を振り回し、進路を探しながら、興奮気味に遺跡の壁に刻まれた文字を指さした。イシェは彼の背後から慎重に進んでいった。
「ここには…何か書かれている!」ラーンの声が、狭い空間内にこだました。イシェが近づき、懐中電灯の光を当てると、壁には複雑な模様と記号が刻まれていた。
「これは…」イシェは言葉を失った。模様は、かつて見たことのないもので、どこか懐かしいような不思議な感覚を抱かせた。
その時、ラーンが突然叫んだ。「イシェ!見てくれ!」
彼は崩れた石の下から、小さな箱を発見していた。イシェは駆け寄り、箱を開けると、中には美しい宝石と、一枚の古い手紙が入っていた。
手紙には、王とその妻の間で交わされた愛の誓い、そして、この世界に平和をもたらすための願いが記されていた。イシェは手紙の内容に心を打たれ、胸を締め付けられるような感情に襲われた。
ラーンの笑顔は、いつもとは少し違った輝きを放っていた。「見てくれ!大発見だ!」彼の興奮は、まるで自分のことのように喜んでいるようだった。
イシェは、ラーンの純粋な喜びを見つめながら、自分が何者なのか、何を求めているのか、改めて考える必要を感じた。