ビレーの喧騒を背に、ラーンはイシェに向かって笑みを浮かべた。「今日はいい日になりそうだぜ!何か感じるぜ、イシェ、大穴が待ってる!」 彼の瞳にはいつものように冒険心を宿していたが、イシェは眉間に皺を寄せた。
「またそんなこと言わないでよ。遺跡探索なんて、いつも大した収穫はないわ」彼女は地図を広げ、慎重に地形を確認しながら言った。「今日はテルヘルさんの言う通りに、あの崩れかけた塔へ向かうべきね。危険な場所だけど、何か見つかる可能性もある」 ラーンの楽観的な態度には常にイシェは冷静に対峙していた。彼女にとって遺跡探索とは、単なる冒険ではなく、将来の安定を築くための手段だった。
「そうだな、テルヘルさんのお陰で今回はいい報酬がもらえるぞ!これで新しい剣を買って、もっと深く遺跡に潜れるようになる!」ラーンの目は輝いていた。彼の夢はいつも大穴を見つけること。イシェはその夢を温かく見守っていたが、どこか現実的な不安も抱えていた。
崩れかけた塔の入り口に着くと、テルヘルが待ち構えていた。「準備はいいか?あの塔には危険な罠があるかもしれない。慎重に進むんだ」 彼女の目は鋭く、周囲を見回す。強力な意志を秘めた女性だった。
「任せておけ!俺たちが先導するぜ!」ラーンは剣を抜き、堂々と塔の中へと踏み込んだ。イシェは彼の後ろを歩きながら、テルヘルの言葉を思い出した。「ヴォルダンへの復讐のため、私はどんな手段も使う」 彼女の目は冷たかった。
塔内は暗く湿っていた。壁には苔が生え、床には崩れ落ちた石が散らばっている。ラーンは興奮気味に周囲を探索しながら、イシェは慎重に足取りを確かめた。テルヘルは常に警戒を怠らず、鋭い視線で周囲を監視していた。
突然、床の一部が崩れ、ラーンが深い穴に落下した。「ラーン!」イシェの叫びが塔内に響き渡った。彼女は恐怖を感じながらも、すぐに冷静さを取り戻した。テルヘルは素早く行動し、ロープを投げ下ろした。イシェはそのロープを掴み、深い穴に降りていった。
穴底ではラーンが意識を失っていた。イシェは必死に彼を助け起こし、怪我がないか確認した。その時、彼女は床に何か光るものを見つけた。それは小さな箱だった。イシェが慎重に箱を開けると、中には古びた巻物が入っていた。
「これは…」イシェは息をのんだ。巻物には、遺跡の地図と、古代文明の言葉で書かれた謎めいた記述が記されていた。それは、大穴への手がかりかもしれない。イシェは胸の高鳴りを抑えきれなかった。だが、同時に、この発見が彼女たちの運命を大きく変えることを予感し、不安な気持ちに駆られた。
彼らは塔から脱出し、ビレーに戻った。ラーンの怪我は軽かった。テルヘルは巻物を受け取り、鋭い視線で中身を確認した。「これは…ヴォルダンと関係があるかもしれない。私の復讐には欠かせないものだ」 彼女の言葉には強い意志が込められていた。
イシェはラーンを見て、彼の無邪気な笑顔に少しだけ不安を感じた。彼女はまだ、大穴を求める彼の夢を信じたいと思った。しかし、この巻物の出現によって、彼らの運命は大きく動き出すことになったことは確実だった。