ラーンが遺跡の入り口で深呼吸をした。冷たい空気が肺の中に広がる。いつもならワクワクするこの瞬間だが、今日は何かが違う。イシェの顔色が悪いのが気になるし、テルヘルはいつもより口数が少ない。
「よし、行こう!」
ラーンの声はいつものように明るい。しかし、イシェは小さく頷くだけだった。テルヘルの目は遺跡の奥深くを伺っている。
「今回は慎重に進もう。」
テルヘルの声が低い。何かを知っているようだが、 details は言わない。ラーンはイシェに視線を向けると、彼女は小さく頷いた。いつも通りではないが、何かを感じ取っているようだ。
遺跡の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂う。足元には崩れかけた石畳が広がる。ラーンの剣が石畳を叩きつけると、鈍い音が響き渡った。イシェは懐から小さなランプを取り出し、火をつけた。光が遺跡の壁に影を落とす。
「ここだな。」
テルヘルが壁の一部分を指さした。そこに奇妙な模様が刻まれていた。イシェが近づき、慎重に模様をなぞるように触れた。すると、壁の一部が沈み込み、奥へと続く階段が現れた。
「これは...」
イシェは言葉を失った。ラーンも息をのんだ。この遺跡は今まで見たことのない規模だった。そして、何か大きな秘密を隠しているような気がした。
彼らは階段を下り始めた。足音だけが響く静寂の中、背筋に冷たいものが走った。
「何か感じる...」
イシェが呟いた。ラーンの心にも不安がよぎる。いつもは軽率なラーンだが、今回は何かを察知しているようだった。
階段の途中にあった扉を開けると、広大な空間が広がっていた。中央には巨大な石碑がそびえ立ち、その周りを奇妙な装置が取り囲んでいた。
「これは...」
テルヘルが呟いた。「ヴォルダンが探していたもの...」
ラーンの心は激しく鼓動した。ヴォルダンとは何か関係があるのか。そして、この遺跡にはどんな秘密が眠っているのか。
イシェは石碑に刻まれた文字を注意深く読み始めた。しかし、その文字は彼女には理解できなかった。
「これは...古代の言語だ」
テルヘルが言った。「私は解読できるかもしれない。」
彼女は石碑に近づき、指で文字をなぞり始めた。すると、石碑から光が放たれ、部屋全体を照らし出した。
その瞬間、ラーンの頭の中に何かが蘇ってきた。幼い頃に母親が語ってくれた古い物語。遠い昔、この地に栄えた文明と、そこに眠る強力な力について。
そして、その物語の中で語られていた言葉。
「忘れられたもの...」