ビレーの朝は早かった。薄暗い空の下、ラーンがイシェを起こすために粗雑な石を投げ入れた。イシェは眠りの浅い体質で、石が当たるとすぐに起き上がった。
「今日はテルヘルが遺跡指定した場所へ行くんだろ?」
イシェは眠い目を擦りながら言った。ラーンの顔にはいつものように興奮の色が浮かんでいた。
「そうだ!テルヘルが言うには今回は大物らしいぞ。金貨の山が埋まっているとか言ってた」
ラーンは胸を躍らせながら言ったが、イシェは眉をひそめた。テルヘルの言葉はいつも大げさに聞こえた。
「また嘘つきか?」
イシェは呟いたが、ラーンの熱気に押されて準備を始めた。
遺跡の入り口付近ではテルヘルが待っていた。彼女はいつもより表情が硬く、何かを考えているようだった。
「今日は少し危険な場所だ」
テルヘルは低い声で言った。「ヴォルダンとの国境に近い場所だ。敵の斥候がいる可能性もある」
ラーンの顔色が変わった。イシェも緊張した。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が充満していた。足元には崩れそうな石畳が広がっていた。彼らは慎重に進むが、時折不気味な音が響き渡り、背筋を寒くさせる。
「何かいるぞ」
ラーンの声が震えていた。イシェは剣を構え、周囲を警戒した。影が揺らいでいるように見えたが、すぐに消えてしまった。
「何だったんだろう?」
イシェは不安そうに言った。
「気にするな。俺たちが強いんだ!」
ラーンは強がるように言ったが、イシェは彼の言葉に嘘があることを知っていた。
遺跡の奥深くまで進むにつれ、緊張感が高まっていった。
そしてついに、彼らは目的の場所にたどり着いた。そこには金貨の山ではなく、巨大な石棺があった。
「これは…」
イシェの声が震えていた。石棺の上には奇妙な紋章が刻まれており、不気味なオーラを放っていた。
その時、背後から何者かが襲ってきた。ラーンは反射的に剣を振り上げたが、相手は素早くかわし、イシェに飛びかかった。
イシェは必死に抵抗したが、相手の力は強すぎた。
「イシェ!」
ラーンの叫びが響き渡った。その時、テルヘルが相手を背後から刺し貫いた。
イシェは一命を取り留めたが、深く傷ついていた。
「お前は一体…」
イシェはテルヘルの顔を見つめながら言った。
テルヘルは苦しい表情で言った。「ヴォルダンは遺跡に何かを隠している。そして、それを手に入れるために、私はどんな手段も厭わない」
イシェはショックを受けた。テルヘルは彼らを騙していたのだ。
ラーンが駆け寄ってきた。
「イシェ!」
ラーンの顔には悲しさと怒りが入り混じっていた。
イシェは苦しそうに言った。「ラーン…逃げろ…」
ラーンの瞳から涙が溢れ出した。
「絶対に逃げるな、イシェ!」