ビレーの朝焼けが、ラーンの寝顔に反射した。イシェは彼を起こす代わりに、テルヘルに報告していた。「まだ起きないみたいですね。いつも通り、夢でも見てるんでしょう」。テルヘルは冷たい目で視線を落とす。「無駄な時間を過ごしているようだな。今日は特に急ぎだ」
イシェは頷きながら、ラーンの寝顔を見つめた。彼の顔には、幼い頃から変わらない無邪気な笑みが浮かんでいた。それは彼を愛おしく思う気持ちと同時に、どこか切ないものを感じさせた。「大穴」という夢は、彼にとってどんな意味を持っているのだろう。
テルヘルはイシェの視線を感じ取り、声を荒げた。「考えすぎだ。あの男は夢を見るのが好きなだけだ。我々の目的を忘れるな」。そう言って彼女は立ち上がり、ラーンの肩を叩き起こした。
遺跡にたどり着くと、そこは異様な静けさに包まれていた。空気中に漂う重苦しい感覚。イシェは背筋が寒くなるのを感じた。「何かが違う...」と呟く。ラーンはいつものように無邪気に、「宝だ!きっと大穴だ!」と叫びながら遺跡の中へ飛び込んだ。
テルヘルは眉をひそめた。「急ぎすぎるな、ラーン」。しかし、彼の言葉はすでに風に乗って消えていった。イシェはテルヘルに不安げな視線を向けると、ラーンの後を追いかけた。
遺跡の奥深くでは、ラーンが奇妙な石版に触れた瞬間から、空気が歪み始めた。壁から悪臭を放つ黒い液体が流れ出し、地面には不気味な紋様が浮かび上がった。イシェは恐怖に慄きながら、ラーンの名を叫んだ。「ラーン!早く逃げろ!」
しかし、ラーンは立ち尽くしていた。彼の目は、石版に映し出された何かを見つめ、狂気じみた笑みを浮かべていた。
「ついに...見つけた...」と呟くラーンの言葉は、まるで別の誰かの声のようだった。黒い液体がラーンの身体を包み込み、彼を飲み込んでいく。イシェは絶望したように叫んだ。「ラーン!」
テルヘルは冷静に状況を分析し、「悪性」の影響だと判断した。彼女はイシェの手を取り、「この遺跡から出るんだ!すぐに!」と命じた。しかし、イシェの足は動かなかった。ラーンの姿が、まるで悪夢のように脳裏に焼き付いている。「ラーン...」。
テルヘルはイシェを無理やり引きずり出し、遺跡から逃げ出した。振り返ると、遺跡からは黒い煙が立ち上り、不気味な光が漏れていた。
イシェは必死に後ろを見つめながら、涙を流した。「ラーン...」。彼女は、あの笑顔はもう二度と見られないことを知っていた。そして、この出来事は、彼女の人生を大きく変えることになったのだった。