「おいラーン、あの石像、触るな！」イシェの制止は届かなかった。ラーンの巨体は大げさに石像に寄りかかり、その表面を指で叩き始めた。埃が舞い上がり、一瞬の間、石像の目は輝いたように見えた。「うわっ、何だこりゃ？」ラーンが驚きの声を上げると、石像の目が再び鈍い光に変わった。「やれやれ…」イシェはため息をつきながら、石像から離れたラーンの背後を見張った。
「よし、これで準備は整ったぞ！」テルヘルが満足げに言った。彼女は周囲を警戒しながら、小さな袋から粉末状の薬草を取り出した。「これはな、この遺跡のトラップを解除するんだ。効果は一時的だから、急いで進むぞ」
遺跡の中心部へと続く通路は狭く、壁には古びた彫刻が施されていた。ラーンの足音だけが響き渡り、不気味な静寂に包まれていた。イシェは緊張しながら周囲を観察し、テルヘルの後を歩いていた。
「あの…テルヘルさん、この遺跡について何か知ってるんですか？」イシェが尋ねると、テルヘルは一瞬だけ眉間に皺を寄せた。「少しだけだ。だが、それは重要ではない。重要なのは、この遺跡から我々の目的のものを入手することだ」
通路の先に広がる広い部屋では、巨大な祭壇が置かれていた。その上に、光り輝く宝石が埋め込まれた金色の冠が安置されていた。「あれが…」ラーンは息を呑んだ。「目的の遺物か？」テルヘルは頷き、ゆっくりと祭壇に近づいていった。
その時、部屋の奥から不気味な音が聞こえてきた。イシェは背筋が凍りつくような感覚に襲われた。「何かいる…！」ラーンの剣が光り始めた。影が揺れ動き、巨大な怪物が現れた。それは石像の顔と、獣のような体を持つ恐ろしい姿だった。
「逃げるぞ！」テルヘルが叫んだ。だが、すでに遅かった。怪物はラーンに襲いかかり、強力な腕で彼を吹き飛ばした。「ラーン！」イシェは絶叫した。ラーンの姿は崩れ落ちていく。
「逃げろ、イシェ！」テルヘルが剣を抜くと、怪物に立ち向かった。だが、その力は怪物には通じなかった。テルヘルは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
イシェは恐怖と怒りで震えていた。ラーンを守るため、そしてテルヘルの復讐を果たすために…。イシェは決意を固め、ポケットから小さな瓶を取り出した。そこには、テルヘルが渡してくれた、強力な毒薬が入っていた。