ビレーの酒場「荒くれ者」のカウンター越しに、ラーンがイシェに目を細めた。「おいイシェ、今日のあの遺跡、俺にはちょっと怪しい気がしないか?」
イシェは静かにグラスを傾け、「ラーン、またそんなこと言ってないかい。テルヘルが言うなら大丈夫だろう。それに今回は報酬がいいよな。」と答えた。彼女の目は、ラーンの顔から逸れ、遠くを見つめていた。
「まあな、確かにそうだな」とラーンも納得したようにうなずく。「でもさ、あの遺跡の雰囲気、なんか重かったよな?あの石碑に刻まれた文字…なんか気持ち悪かったぞ。」
イシェは小さくため息をついた。「あの文字は古代語で書かれてた。テルヘルが言うには、強力な魔力が込められてるらしい。だから危険なのかもしれないけど…」
「危険だって言うなら、最初から行くべきじゃなかっただろ!」ラーンは声を荒げた。「あの遺跡…あの石碑を見た瞬間から、俺の心がなんか締め付けられたような気がしたんだ。まるで…後悔してるような、そんな気持ちになって…」
イシェはラーンの手の上に自分の手を置いた。「大丈夫だよ、ラーン。何もなかったと思えばいいんだよ。」
しかし、ラーンの心にはすでに暗い影が落ちていた。あの遺跡で感じた奇妙な感覚は、彼を離れることはなかった。そして、その影は、彼ら三人の人生に暗い影を落とすこととなる。
テルヘルは冷静に計画を進めていた。ヴォルダンへの復讐を果たすためには、この遺跡の奥底にある伝説の遺物を手に入れる必要がある。そのために、彼女はラーンとイシェを利用する。そして、彼女自身も過去の過ちから逃れられない。あの日、彼女はヴォルダンとの戦いで大切なものを失った。そして、その悔恨は、彼女を復讐へと駆り立てていた。
「さあ、準備はいいか?」テルヘルは冷たい声で言った。「遺跡へ行くぞ!」
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らの心には不安が渦巻いていた。彼らは、この遺跡の奥底に眠る真実に触れることになるのかもしれない。そして、その真実が彼らを救うのか、それともさらに深い絶望へと突き落としてしまうのか…。