ラーンの大柄な体躯が遺跡の入り口の石門をくぐるとき、埃が舞い上がった。イシェは咳き込むように小さく息を吐き、「またここか…」と呟いた。ビレーの市場で噂になった遺跡だが、実際にはただの埋れかけた納屋だった。それでも、ラーンは目を輝かせていた。「ほらイシェ、もしかしたら今回は大穴が見つかるかも！」
イシェはそんなラーンの熱意を冷やすように、「また夢物語だな」と呟いたが、内心では少し期待していた。最近、ビレーの市場にはヴォルダンの商人たちが頻繁に出入りするようになり、遺跡の噂話も以前より活発になっていたのだ。もしかしたら、本当に何か大きなものが見つかるかもしれない。
テルヘルは彼らのやり取りを冷酷な目で見ていた。「時間無駄にするな。目的の遺物を見つけたらすぐに引き上げる」と命令口調で言った。ラーンは少しだけ反発したものの、テルヘルの鋭い視線に負け、黙って奥へと進んだ。遺跡内部は予想以上に狭く、埃っぽかった。イシェが懐中電灯の光を当てると、壁には奇妙なシンボルが刻まれていた。「これは…」イシェは眉間に皺を寄せた。
「何だ？」ラーンが尋ねると、イシェは「見たことのない記号だ…何か古代の呪文かもしれない」と答えた。その時、テルヘルが何かを見つけた。「ここだ！」彼女は壁の一角を指さした。そこには小さな石棺が埋め込まれていた。
興奮気味に石棺を開けると、中から光る球体が転がり出た。球体からは不思議な温かみが感じられ、まるで生きているかのように脈打っていた。イシェは思わず息を呑んだ。「これは…」と呟いた。
テルヘルは冷静に球体を手に取ると、「これはヴォルダンが欲しがっている『恵みの珠』だ」と言い放った。ラーンは「恵みの珠」の意味を理解できなかったが、イシェはテルヘルの言葉を聞いてぞっとした。ヴォルダンが欲しがるもの…それは一体どんな力を持っているのか？そして、それがビレーにもたらす影響は？
イシェは不安を感じながら、ラーンの顔を見た。彼の目は輝き、興奮で震えていた。だが、イシェの心は冷たい空気に包まれていた。「恵みの珠」がもたらす未来は、希望に満ちたものなのか、それとも…