ラーンの粗雑な斧の振り下ろしが、埃を巻き上げるだけで石壁には全く届かなかった。イシェは眉間に皺を寄せながら、「あの隙間から入れると言ったでしょう? ラーン、本当に大穴を探すつもりなの?」と呟いた。ラーンは肩をすくめて、「大丈夫だって! 指示はあいつからのものだしな。ほら、テルヘル!」と振り返ると、彼女は冷静に石壁の表面を撫でている。「ここには何かあるはずだ」とだけ告げ、小さな道具を取り出した。
イシェがため息をつくと同時に、ラーンはテルヘルの動きを見つめる。彼女の動作には無駄がなく、どこか機械的に見える。まるで生きている遺跡の一部のように。イシェは、そんなテルヘルを少し怖く感じることもあった。ヴォルダンへの復讐のためなら、どんな手段も厭わないという彼女の言葉が脳裏に蘇る。
テルヘルが小さな石片を壁の隙間にはめ込んだ瞬間、石壁の一部がゆっくりと沈み始めた。埃が舞い上がり、三人は息を呑んで見守った。すると、その奥から薄暗い光が漏れてきた。ラーンの目は輝き、「よし! これで大穴だ!」と叫びながら、先陣を切って進んでいった。イシェは、ラーンの背中に手を伸ばそうとしたが、彼はもう戻らない。テルヘルが静かに言った。「行くぞ、イシェ。あと少しだ」
イシェは、テルヘルの言葉に深く息を吸い込み、彼女の後を追いかけた。埃っぽい空気を吸い込みながら、彼女は思った。この遺跡の奥深くには何が待ち受けているのか?そして、この冒険の終わりに、本当に「大穴」があるのか? それとも…。
イシェは、小さく息継ぎをした。