ビレーの朝は冷え込む。ラーンが目を覚ますと、イシェが既に火を起こし、薄暗い焚き火の前で何かを煮立たせていた。いつも通りの風景だが、今日はどこか重苦しい空気が漂っていた。
「今日はテルヘルが来る日だな」
イシェは言葉を濁すように言った。ラーンの顔色を伺うような視線を感じた。
「ああ、そうだな」
ラーンは深く息を吸い込んだ。テルヘルの依頼は高額で魅力的だが、彼女と共に遺跡に潜ることは常に危険を伴う。
今日は特にその予感が強かった。理由はわからないが、まるで空気が重く、何かが起こる直前の静けさのようだった。まるで、大地の奥底から吹き上がる息吹を感じ取れるような、そんな感覚だった。
「準備はいいか?」
テルヘルはいつものように鋭い眼光で二人を睨みつけた。今回は特に緊張感が違う。ラーンは彼女の言葉に力なく頷いた。イシェはいつも以上に静かに動き回っていた。
遺跡の入り口に立つと、冷たい風が吹き抜けた。ラーンの背筋が寒くなるのを覚えた。
「さあ、行くぞ」
テルヘルが先導し、三人は暗い洞窟へ足を踏み入れた。