「よし、今回はあの崩れた塔だな。イシェ、地図確認したか？」
ラーンが陽気にそう言うと、イシェは眉間に皺を寄せながら小さく頷いた。
「何度も言うけど、ラーン。あの塔は危険だって。特に地下迷宮部分は、以前調査隊が全滅した現場なんだぞ」
「大丈夫大丈夫！そんなことより、もしかしたら大穴が見つかるかもな！ほら、テルヘルさんも期待してんだろ？」
ラーンの視線に誘われるようにテルヘルが顔を上げた。彼女の目は鋭く、いつもどこか冷たかった。「目標達成のために協力するだけです。危険を顧みない行動は控えるよう、念を押しておきます」
テルヘルはそう言って、剣の柄を軽く握り締めた。その動作は、まるで何かの予兆のようだった。
ビレーを出発して間もなく、ラーンとイシェが遺跡探索に慣れていることが伺えた。足取りも軽やかで、険しい山道も難なくクリアする。一方、テルヘルは常に周囲を警戒し、時折立ち止まって視界を確保していた。
崩れた塔の入り口に着くと、ラーンは興奮気味に駆け出すように中へ入っていった。イシェがため息をつきながら後を追うと、テルヘルも静かに塔の中に入った。
塔の中は薄暗く、埃っぽかった。崩落した石や朽ちた木々が散らばり、不気味な雰囲気を漂わせていた。ラーンは意気揚々と奥へ進んでいくが、イシェは足取りを重くし、周囲を注意深く見回していた。
地下迷宮への入り口を見つけたとき、イシェはラーンの腕を掴んで引き止めた。「待て！ここは本当に危険だ。戻った方が良い」
しかしラーンは耳を貸さなかった。「大穴が見つかるかもな！そんなもん、ちょっとの危険で諦める俺じゃないぜ！」
イシェの説得もむなしく、ラーンは迷宮への階段を駆け下りていった。イシェがため息をつきながら後を追うと、テルヘルも静かに階段を降りてきた。
地下迷宮は湿気で充満し、不気味な音が響いていた。壁には奇妙な文字が刻まれており、床には骨や破れた武器が散らばっていた。ラーンは興奮気味に進むが、イシェは不安を隠せないでいた。
すると、突然、後ろから何者かの気配を感じた。イシェは振り返ると、影のようなものがゆっくりと近づいてくるのを見つけた。
「ラーン！気をつけろ！」
イシェの叫び声と共に、影はラーンに襲いかかった。ラーンの剣が光り、影を斬り裂いた。しかし、影は消えることなく、再びラーンに襲い掛かってきた。
「なんだこれは…！」
ラーンの顔色が悪くなった。この影には生命を感じなかった。まるで、呪われた魂のようなものだった。イシェは慌ててテルヘルに助けを求めたが、テルヘルは冷静な表情で状況を分析していた。
「これは厄介だ。この影を倒すには、特別な方法が必要かもしれない」
テルヘルはそう言うと、背負っていた袋から何かを取り出した。それは小さな瓶に入った液体だった。テルヘルは瓶の液体を剣に塗ると、再び影に襲いかかった。
剣が影に突き刺さる音と共に、影は悲鳴を上げ、ゆっくりと消滅していった。しかし、その場に異様な静けさが広がり、ラーンたちは息を呑むほど不安を感じた。
「一体、何だったんだ…」
イシェの言葉に、テルヘルは沈黙したまま、周囲を見回していた。そして、彼女は小さな声で呟いた。
「この遺跡には、かつて戦った兵士たちの魂が封じ込められているらしい…彼らを守り、鎮めるために、我々はここにいるのだ」
ラーンの顔色がさらに青ざめた。イシェは彼の肩を叩き、励ますように言った。
「大丈夫だよ、ラーン。俺たちが一緒に乗り越える」
しかし、イシェ自身の心にも不安が渦巻いていた。この遺跡で何が起こるのか、誰も知る由もなかった。