ラーンの豪快な笑い声がビレーの朝の静けさを突き破った。イシェは眉間にしわを寄せて、彼を見つめた。「また大穴の話か。いつになったら現実を見るんだい?」
「見ろよイシェ!いつか必ず掘り当てられるさ!あの日、あの場所で見つけた古代の地図…あれが示す場所にはきっと…」ラーンは目を輝かせながら熱く語り始めた。
だがイシェの耳には入らない。彼女は昨日、テルヘルからもらった小さな水晶球を握りしめていた。冷たく硬いその表面に映る自分の姿は、どこか悲しげに見えた。「大穴」の話ばかりするラーンにイシェは疲れていた。彼の熱意と純粋さに心を痛めながらも、同時に、自分には届かないような彼の世界に少しだけ嫉妬もしていた。
「よし、今日はあの遺跡へ行くぞ!」ラーンの声で意識を戻した。テルヘルが用意した地図を広げると、複雑な迷路のような通路が記されていた。イシェは自分の役割を思い出して深く息をついた。彼女はラーンの夢を叶えるため、そしてテルヘルの復讐を手伝うために、この危険な遺跡に挑むのだ。
「準備はいいか?」テルヘルが鋭い目で二人を見渡した。「今回は特に慎重だ。ヴォルダンとの関係で、ここには危険な罠が仕掛けられている可能性が高い」彼女の言葉は冷酷で、しかし確実なものだった。イシェは頷き、ラーンの後ろを歩く。彼の背中は大きく、頼りになるように見えた。だがイシェの心には、小さな水晶球と、そこに映る自分の姿だけが焼き付いていた。
遺跡の入り口に立つと、ラーンがいつものように大きな声で叫んだ。「さあ、大穴を探しに行くぞ!」イシェは深く息をつき、彼の後を続けた。一歩ずつ、暗い遺跡へと進んでいく。その奥には、彼らの運命、そしてイシェ自身の「恥じらい」を打ち破るための鍵が隠されていた。