ラーンが剣を抜き放つ音が、埃っぽい遺跡の静けさに反響した。目の前には巨大な石像が立ちはだかり、その両腕はまるで鉄の壁のように通路を塞いでいた。
「イシェ、どうする？」
ラーンの声に、イシェは小さくため息をついた。彼女は石像の表面を丁寧に観察し、わずかな隙間を見つけ出した。
「ここを通るしかないようだけど…狭くて危険だ。ラーン、本当に大丈夫か？」
「大丈夫だって！俺が道を切り開いてやる！」
ラーンの豪快な笑いは、イシェの不安をさらに深めた。彼女はいつもそうだった。計画性もなく、危険を顧みない。だが、その recklessness がラーンらしさでもあり、イシェは彼を憎むことはできなかった。
テルヘルが背後から低い声で言った。「石像を破壊するのも手だ。ただし、その場合は騒音を立てることになる。周囲に敵がいる可能性もあることを忘れるな」。
ラーンの顔色が一瞬曇った。彼は石像を破壊するよりも、直接的な戦いを好むタイプだった。しかし、テルヘルの言葉は正しかった。彼らはヴォルダンとの戦いの最中であり、不必要なリスクは避けなければならなかった。
「よし、わかった。イシェ、お前が先導しろ」。ラーンの言葉に、イシェは小さく頷いた。彼女は狭くて暗い通路を慎重に進む。石像の冷たい石肌に触れるたびに、背筋にぞっとする寒気が走った。
「ここを通るには、屈まなければいけない」。イシェの声がかすれていた。「狭いぞ…」。
ラーンが彼女の前を通り過ぎるとき、イシェは彼の背中を見つめた。彼の背中は大きく広く、頼りになるように見えた。だが、同時に、その広がりの中に、深い影を感じた。それはラーンの過去、そして彼に刻まれた「恥」の影だった。
ラーンは過去に大きな過ちを犯した。その過ちによって大切なものを失い、深く傷ついた。彼はそれを償うために遺跡を探し回り、財宝を求めているのかもしれない。しかし、イシェは彼の本当の目的はそれではないと知っていた。彼は真の「大穴」を見つけようと躍起になっているのだ。それは彼自身の過去の傷を癒すための、唯一の道なのだ。
イシェは深く息を吸い、ラーンの後ろを歩み始めた。彼女にはラーンの影を照らすことができないかもしれない。しかし、少なくとも彼のそばに寄り添い、共に歩んでいくことはできる。そうすることで、彼が抱える「恥」から少しでも解放されることを願っていた。