「また大穴か? ラーン、そんな夢ばかり見てる場合じゃないぞ」イシェが眉間に皺を寄せながら言った。ラーンの瞳は遺跡の入り口を見据えて輝いていた。「いつか必ず掘り当ててやるんだ! それでビレーから出て、お前もイシェを連れて広い世界へ行くんだ!」
「広くてどうするんだい? 何より、そんなこと夢見てる暇があるなら、今日の仕事に集中しろよ」イシェはため息をつきながら、テルヘルが渡した地図を広げた。遺跡の内部構造と罠の位置が詳細に記されていた。「あのテルヘルは一体何者なんだ?」イシェは地図を片付けながら呟いた。
「彼女には秘密があるんだろうな。でも、それが僕たちにとって邪魔になるわけじゃないだろう」ラーンの言葉には確信があった。イシェはその表情を見て少しだけ安心した。だが、胸の奥では何かがざわめいていた。テルヘルとラーンの距離が近くなりすぎるような気がして、イシェは不快感を覚えた。
「よし、準備はいいか? 今日は特に危険な場所が多いから気をつけろ」テルヘルの言葉にラーンとイシェは頷いた。テルヘルはいつも冷静沈着で頼れる存在だった。だが、最近彼女の視線を感じる度に、イシェの心臓は高鳴り出すようになっていた。それは嫉妬なのか? それとも、別の感情なのか? イシェ自身も理解することができなかった。
遺跡内部は暗く湿っていた。足元には滑りやすい石が敷き詰められており、天井からは滴り落ちる水音が不気味に響いていた。「ここぞ!」ラーンの声が響き渡った。彼は壁の一角を指さしていた。そこには複雑な模様が刻まれた石板が埋め込まれていた。「これこそが遺跡の鍵だ!」
イシェはラーンの興奮に少しだけ感化された。しかし、その時、背後から冷酷な声が聞こえた。「邪魔するな」
振り返ると、テルヘルが剣を抜き、イシェに向かって襲いかかっていた。ラーンは驚いて声を上げた。「何をしているんだ、テルヘル!」
「嘘をついた。私は復讐のためにここに来たのではなく、お前たちを利用していたのだ」テルヘルは冷たい目でイシェを見下ろした。「この遺跡には、私が求めるものがある。そして、お前はこの場所から二度と出ていけない」
ラーンの剣がテルヘルに向けられた。しかし、イシェは動けなかった。なぜなら、テルヘルの言葉に心を打たれたからではなく、自分の胸の奥底で渦巻く感情に押しつぶされそうになっていたからだった。
「イシェ! 逃げろ!」ラーンの叫び声だけが、崩れゆく遺跡の中に響き渡っていた。