ラーンの粗野な笑い声とイシェの淡々とした指示が、遺跡の薄暗い空間内にこだました。テルヘルは二人を見つめながら、胸の奥底で冷たい炎を感じた。この二人は、ヴォルダンに奪われたものを取り戻すための、ただの道具に過ぎない。そう思えば、彼らへの感情を麻痺させることができたはずだった。だが、ラーンの無邪気な笑顔や、イシェの冷静な判断力には、どこか引かれるものがあった。特にイシェは、時に見せる凛とした表情に、かつての自分自身を重ねてしまう。あの時、ヴォルダンに全てを奪われたとき、彼女は誰かに手を差し伸べてほしかった。
「何か見つかったか？」
テルヘルの問いかけに、ラーンはがっかりしたように顔をしかめた。イシェはいつものように淡々と報告を始めた。テルヘルは二人のやり取りを聞きながら、自分自身の感情を押し殺した。この遺跡から見つけられるものなど、ヴォルダンへの復讐には必要最低限の物資に過ぎない。だが、なぜだか、イシェが発見した小さな水晶のかけらを握りしめた時、胸に熱いものが込み上げてきた。それは、憎しみに燃える炎ではなく、何か懐かしい温かさだった。
「これは…」
イシェの声が震えた。「以前、古い書物で見たことがある…この結晶は、かつてヴォルダンが支配していた地域で信仰されていた神聖な物らしい」
テルヘルは驚愕した。ヴォルダンにまつわるもの、しかも神聖なもの…。それは、復讐の糸口になるかもしれない。だが同時に、イシェの瞳に浮かぶ興味深さに、彼女は戸惑いを覚えた。その目は、単なる好奇心ではなく、何か別のものを探しているようだった。
「この結晶があれば、ヴォルダンを倒せるかもしれない…」
ラーンが目を輝かせた。イシェは静かに頷きながら、テルヘルを見つめた。その視線には、復讐だけでなく、何か別の感情が宿っていた。それは、希望なのか、それとも…
テルヘルは胸を締め付けるような予感を抱きながら、三人で遺跡から出てきた。夕暮れの空は、燃えるような赤色に染まっていた。