ビレーの薄暗い酒場「錆びた剣」の片隅で、ラーンは豪快な笑い声をあげながら、イシェの眉間に刻まれたしわを見つめていた。「おい、イシェ。またそんな顔をするなよ。俺たちには大穴があるんだぞ!いつか必ず掘り当てられる!」
イシェはため息をつきながら、テーブルに置かれた粗末な地図を指さした。「ラーン、この遺跡の調査報告書をもう一度見ろ。そこには『危険区域』と書かれているではないか。あの洞窟はただの宝庫じゃない。俺たちは命がけだぞ」。
ラーンの表情は一瞬曇ったが、すぐにいつもの明るい笑顔を取り戻した。「大丈夫だ、イシェ!俺がいるんだからな。それに、テルヘルが言ってただろ?あの遺跡には古代の武器があるって。それを手に入れたら、ヴォルダンにも勝てるかもな!」
イシェはラーンの言葉を聞いても、心から安心することはできなかった。テルヘルの目的はヴォルダンへの復讐であり、彼らを巻き込んだのは単なる手段に過ぎないことを、彼女は肌で感じ取っていた。
「よし、わかったよ、イシェ」ラーンは立ち上がり、陽気に言った。「準備をしたら、すぐに出発だ!大穴を掘り当てて、ビレーを代表する冒険者になろうぜ!」
イシェはラーンの後ろ姿をぼんやりと見つめた。彼の無邪気な笑顔に、彼女はどこか哀しさを覚えた。ラーンの純粋さは、彼を危険へと突き進める燃料にもなるのだ。そして、テルヘルのように冷徹な判断力を持ち合わせない限り、真の自由を得ることはできないのかもしれない、とイシェは思った。
「準備はいいか?」テルヘルの声が、イシェの考えを断ち切った。「遺跡には罠が仕掛けられているかもしれない。慎重に進むことだ」。
彼女の鋭い視線は、ラーンの無邪気な笑顔を見透かすかのようだった。そして、イシェはその視線の中に、冷酷な計算と、どこか哀しいまでの怜悧さを感じた。