「おい、イシェ！あの石柱、何か書いてあるぞ！」 ラーンが興奮気味に叫びながら、崩れた石造りの階段を駆け上がる。イシェはため息をつきながらも後を追った。
「また無駄な期待か…」と呟きながら、ラーンの指さす石柱に近づくと、確かにそこに文字が刻まれていた。しかし、それは古代の言語で書かれており、イシェには理解できなかった。「何だこれは…」イシェが首を傾げていると、後ろからテルヘルが近付いてきた。
「ヴォルダン帝国の紋章だ」テルヘルの声は冷たかった。「この遺跡はヴォルダンに属していた可能性が高い」
ラーンの顔色が一瞬だけ曇った。「おい、テルヘル、そんなこと言っても仕方ないだろ。遺跡探すのはあくまで金のためだろ？ヴォルダン帝国とかどうでもいいんじゃないか？」
テルヘルは鋭い目でラーンを睨みつけた。「無知な者め。ヴォルダン帝国の遺跡には危険が伴うことを忘れるな。そして、その危険は我々にも向けられる」
イシェは二人のやり取りに挟まれながら、不安を感じていた。最近、テルヘルの態度が冷たくなっていると感じていたのだ。何かを隠しているようにも思えた。
その時、石柱の奥から不気味な音が響き渡った。まるで獣の咆哮のようだった。ラーンの顔色が真っ青になった。「おい、何だあの音！？」
テルヘルは剣を抜き、周囲を見回した。「警戒しろ。何かが近づいてくる」
地面が振動し始め、石柱の影から巨大な影が姿を現した。それは、獣のような姿をした怪物だった。その目は赤く燃え盛っており、鋭い牙を剥き出しにしてラーンたちを睨んでいた。
「逃げろ！」テルヘルが叫んだ。ラーンとイシェは慌てて石柱の後ろに隠れようとしたが、怪物は既にその前に立ちはだかる存在となっていた。
「ぐわあああ！」ラーンの怒号が響き渡り、彼は剣を抜き、怪物に立ち向かった。しかし、その攻撃は怪物にはかすり傷程度でしかなく、すぐに振り払われてしまった。イシェは恐怖で体が固まってしまい、何もできなかった。
テルヘルは冷静に状況を判断し、ラーンを足止めしながら、怪物に攻撃を仕掛けた。しかし、その力は怪物には通用せず、逆にテルヘル自身が吹き飛ばされてしまう。
その時、イシェの頭の中に一つの閃きが走った。彼女は慌ててリュックサックから小さな瓶を取り出し、怪物に向かって投げつけた。瓶は割れ、中から煙のようなものが立ち上り、怪物は苦しそうに唸り声を上げた。それは、テルヘルが以前遺跡で発見した謎の液体だった。
怪物は怯え、ゆっくりと後ずさるように動き始めた。ラーンは息を切らしながら剣を構えたまま、怪物を見つめていた。「や、やっと…」イシェは震える手で手を伸ばし、ラーンの腕を引き寄せた。
「逃げよう…早く！」
三人は必死に遺跡から逃げるように走り出した。後ろから聞こえてくる獣の咆哮は、彼らの背筋を凍らせた。