忘備

備忘の転倒した語。忘れないために記すこと。

物語への影響例

記憶の不確かさへの対策。外部記憶装置としての文字。未来の自己への伝言。

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ラーンの豪快な笑い声とイシェの低いため息がビレーの朝の薄闇にこだました。二人はいつものように、廃墟都市跡に囲まれた広場の真ん中に立つ大穴の前に立っていた。

「よし、今日はこの穴を深く掘ってみるか!」

ラーンは、錆びついた剣を肩越しに振った。イシェはため息をつきながら、持ってきた工具箱を開けた。

「また、大穴だなんて…」

イシェの言葉にラーンは意地悪な笑みを浮かべた。

「いつか掘り当てるぞ!この街で最も深い穴を掘ったら、きっと何かあるはずだ!」

イシェはラーンの背後に回って、彼を軽く押した。

「現実的になろうよ。あの大穴には何年も前から何人もの探索隊が入っている。何も見つからなかっただろう」

「そうかな?誰かが深く掘れば必ず何かあるはずだよ。ほら、昔、この街の地下で巨大な宝庫が見つかった話、覚えてないか?」

イシェは苦笑した。ラーンの話す「巨大な宝庫」の話は、ビレーの人々の間で語り継がれる伝説の一つに過ぎなかった。しかし、ラーンの熱意を冷やすことはできなかった。

「よし、わかった。今回は深掘りだ!」

イシェは道具を手に取り、深く息を吸った。二人は互いに頷き合い、大穴に向かって歩み始めた。

その時、背後から声がした。

「待て。」

ラーンとイシェは振り返ると、黒髪の女性が立っていた。テルヘルだ。彼女は鋭い視線で二人を見下ろしていた。

「今日は私が掘り進める場所を決めた」

テルヘルの言葉に、ラーンは眉をひそめた。

「おい、今日は俺たちが見つけた穴だからな」

「私はあなたたちに依頼した。そしてあなたは私に従うべきだ。」

テルヘルは冷たい声で言った。ラーンの視線はイシェに向けられた。イシェは小さく頷き、ラーンに促すように言った。

「よし、わかった。今日はテルヘルの言う通りにするよ」

ラーンは渋々納得した。テルヘルは満足げに頷き、大穴の端へ歩み寄った。そして、彼女は何かを思い出したように言った。

「あの遺跡から持ち出した遺物について、私は忘備録をつけている。必要な時に見返せるように。」

イシェはテルヘルの言葉の意味を深く理解していた。彼女は復讐に燃えるテルヘルにとって、忘備録こそが真実の宝であり、その記録を何よりも大切にしているのだ。そして、ラーンとイシェはその記録の一部を担う存在になっているのだ、と。