「よし、今回はあの崩れかけの塔だ」
ラーンが興奮気味に地図を広げると、イシェはため息をついた。
「また遺跡か。本当に大穴があると思うのか?」
「あるさ!いつか必ず見つかる!」
ラーンの言葉はいつも自信にあふれていたが、イシェは彼の楽観性に戸惑いを感じていた。彼らはビレーという辺境の街で生まれ育ち、遺跡探索を生業としていた。しかし、これまで見つけた遺物は些細なものばかりだった。
「それにあの塔は危険だって聞いたぞ。ヴォルダンの兵が以前調査して逃げ帰ってきたって」
イシェの言葉にラーンは少しだけ顔色が変わる。ヴォルダンはエンノル連合と対立する大国で、その軍の力は圧倒的だった。
「心配すな。テルヘルさんがいるだろ?」
ラーンの視線は、後ろからついてきたテルヘルに向けられた。彼女は黒髪を後ろでまとめ、鋭い眼差しで周囲を見回していた。
「あの塔には何かあると確信した」
テルヘルは冷たく言った。彼女の言葉には揺るぎない自信があり、イシェも思わずうなずいてしまった。
塔の入り口は崩れかかっており、中に入ると薄暗い廊下に続く階段が現れた。
「ここからは慎重に」
イシェがそう言うと、ラーンは先頭を切って階段を上り始めた。しかし、階段は途中で途絶えており、その先には深い闇が広がっていた。
「どうする?」
イシェが不安げに尋ねると、テルヘルは懐から小さな石を取り出した。
「これを使えば少しは見えるはずだ」
石を投げると、それが空中に浮かび上がり、青い光を放ち始めた。その光が照らす範囲は限られていたが、少なくとも足元を確認できるようになった。
「よし、行こう」
テルヘルが先導し、三人は闇の中を進んでいった。長い廊下の先に、巨大な扉があった。扉には複雑な模様が刻まれており、何かを秘めているように見えた。
「開けられるか?」
ラーンが扉に触れると、イシェは彼を制止した。
「待て。何か仕掛けがあるかもしれない」
イシェは慎重に扉の模様を観察し、ついに手がかりを見つけた。
「ここを押すんだ」
イシェが指さす場所にラーンが手を当てると、扉はゆっくりと開かれた。その奥には、輝かしい宝物が山積みにされていた。
「やった!大穴だ!」
ラーンの叫び声が響き渡った。しかし、その時、背後から冷酷な声が聞こえてきた。
「待った」