「準備はいいか？」ラーンが粗い声で言った。イシェは小さく頷き、テルヘルは鋭い視線で遺跡の入り口を見据えていた。ビレーから少し離れた場所にあるこの遺跡は、周囲に比べて規模が小さく、危険な罠も少ないと言われている。それでも、過去に何人もの探検隊が命を落としたという噂があり、イシェは内心不安でいっぱいだった。
「よし、行くぞ！」ラーンの豪快な声と共に、3人は遺跡へと足を踏み入れた。薄暗い通路は湿った石の匂いで満たされ、時折、コウモリの羽音だけが響いていた。ラーンが先頭を歩き、テルヘルとイシェが続く形で慎重に進んでいく。
しばらく歩くと、通路の先に大きな石の扉が現れた。扉には複雑な模様が刻まれており、その中心には宝石が埋め込まれていた。
「これは…！」テルヘルが目を輝かせた。「古代ヴォルダン文明の紋章だ。ここに何か重要なものがあるに違いない。」
ラーンは興奮気味に扉を押そうとしたが、イシェが制止した。「ちょっと待てよ。罠の可能性もあるぞ。まずは慎重に調べてみよう。」イシェは周囲を注意深く見回し、扉の隙間から覗き込んだ。
その時、突然、床から鋭い棘が飛び出してラーンを襲った。ラーンの咄嗟の反応で棘をかわすことはできたが、左腕には浅い傷がついた。
「くっ…！」ラーンは歯を食いしばり、怒りを露わにした。「卑怯な罠だ！出てこい！」
闇の中から甲高い笑い声が響き渡った。「ふっ、探検隊ごときにそんなものが見つかるわけがないだろう。」
影から数人の人物が現れた。彼らは黒装束を身にまとい、手には剣を構えていた。
「ヴォルダン人だ！」テルヘルが声を上げた。「お前たちは一体何者だ？」
「我々はヴォルダン帝国の精鋭部隊だ。この遺跡は我々が探すものだ。邪魔する者は容赦なく始末する。」
リーダーの男は冷酷な笑みを浮かべた。「さようなら、探検隊。この遺跡で最後に見た景色にしよう。」
彼らは剣を抜き、ラーンたちへ襲いかかった。イシェは素早く動き、敵の攻撃をかわしながら、テルヘルと共に応戦した。しかし、敵の数と強さは圧倒的だった。ラーンの左腕には深く傷がつき、血が染み出ていた。
「ラーン！」イシェが叫んだ。「逃げろ！俺たちはおそらく…」
ラーンの瞳に強い決意が宿った。「逃げない。絶対にこの遺跡から持ち出すぞ。」彼は剣を握りしめ、敵の中央へ突撃した。
その瞬間、ラーンは何かを思い出した。かつて祖父から教わった、必殺の技。それは非常に危険な技で、失敗すれば自分自身をも巻き込む可能性もあった。だが、今は他に選択肢はない。
ラーンは深呼吸し、すべての力を込めて技を繰り出した。剣が光り輝き、敵を貫き通した。その瞬間、遺跡全体が激しく揺れ始めた。