ラーンの粗雑な剣 swing が埃を巻き上げ、薄暗い遺跡の奥深くへ響いた。イシェは眉間に皺を寄せ、その音を聞いただけで不吉な予感を覚えた。
「待てよ、ラーン! ああ、もう遅い…」
ラーンの豪快な笑い声が、崩れかけた石造りの廊下の向こうから聞こえてくる。「なんだ、イシェ? 怖いのか?」彼の言葉は、いつも通り軽薄で、イシェの不安をさらに増幅させた。
彼らはテルヘルに雇われて、この遺跡を探し回っていた。彼女はヴォルダンへの復讐を果たすため、古代文明の遺物に秘められた力を求めていた。だが、イシェにはその目的も、そしてテルヘルの冷酷な意志にも、どこか引っかかるものがあった。
「何か変だぞ、ラーン。」イシェは剣を構え、一歩ずつ慎重に進んでいった。「あの奇妙な音…何かいる気がする。」
ラーンの背後から不気味な音が聞こえてきた。それは金属同士が擦れ合うような音で、まるで何者かがゆっくりと近づいてくるようだった。
「何だかわからないけど、やっつけちゃえばいいだろ!」ラーンは剣を高く掲げ、その言葉に反して少しだけ声が震えていた。イシェは彼の不自然な強がりを察し、心の中でため息をついた。
その時、影が彼らを襲った。それは巨大な虫のような姿で、鋭い牙と刃の生えた脚を持つ、想像を絶する怪物だった。ラーンは驚きのあまり言葉を失い、イシェは反射的に前に飛び出して剣を振り下ろした。
しかし、その攻撃は空を切った。怪物は驚異的なスピードで動き、イシェの攻撃をかわしながら、ラーンの顔面に牙を突き刺した。
「ラーーン!」
イシェの悲痛な叫びが、遺跡の奥深くへと響き渡った。心もとなさに襲われながらも、彼女は立ち上がり、怪物に立ち向かう決意を固めた。だが、その瞬間、テルヘルが姿を現し、怪物に一撃を加えた。
「逃げろ、イシェ!」テルヘルの声は冷酷で、どこか諦念にも似たものだった。「この怪物は、俺たちには倒せねえ。」
イシェは迷いながらも、ラーンの横顔をちらりと見た。彼は目を閉じ、血を流し続けていた。イシェは、テルヘルの言葉に従い、立ち去ることを決意した。だが、その決断の裏には、深い疑念と、心もなさが渦巻いていた。