「よし、今回はあの崩れかけの塔だな！」ラーンの声はいつも通り明るく、ビレーの朝の薄暗い路地裏にこだました。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を広げた。「またしても危険な場所を選んだわね。本当に大穴が見つかると思うの？」
ラーンは笑って肩を叩いた。「大丈夫だって！あの塔には古代の魔法道具が眠っている噂があるんだぞ！俺たちの大穴は、まさにそこに隠されている！」
イシェはため息をついた。ラーンの楽観主義と無計画さにいつも翻弄される。だが、彼の笑顔を見るのは心地よかった。それはまるで、この荒れ果てた世界に希望を灯すような光だった。
「準備はいいか？」テルヘルの声が冷たく響いた。彼女は黒曜石のような瞳で二人を見下ろしていた。「今回は特に慎重に進もう。ヴォルダンからの情報によると、あの塔には強力な罠が仕掛けられているらしい」
ラーンの表情は一瞬曇ったが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。「大丈夫だ、テルヘル！俺たちは最強のチームだぞ！」
イシェはテルヘルの言葉を真に受け、慎重に装備を整えた。彼女はいつも以上に緊張を感じていた。ヴォルダンとの戦いを誓うテルヘルは、決して安易な行動をとらない。彼女の言葉には裏があるはずだ。
崩れかけた塔の入り口にたどり着くと、ラーンが先陣を切って入っていった。イシェとテルヘルは互いに視線を交わした。何かを感じ取ったのか、二人の表情はわずかに硬く歪んだ。
塔の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。石畳の床には苔が生え、壁には崩れ落ちた石が積み重なっていた。ラーンは興奮気味に石柱を叩きながら「ここだ！きっと何かあるはずだ！」と叫んでいた。イシェは彼の後ろをついていき、用心深く周囲を観察した。
突然、ラーンの足元から光が放たれた。彼は驚いてバランスを崩し、よろめきながら壁に手を伸ばした。その瞬間、床一面が赤く光り始めた。
「罠だ！」テルヘルの鋭い声が響いた。彼女は素早く剣を抜いてラーンをかばった。イシェも反射的に daggersを構えた。
床から鋭利な石の矢が飛び上がり、三人は必死に避けながら戦った。しかし、矢は止まずに放たれ続け、彼らの体には傷がつき始めた。
ラーンの顔色は蒼白になった。「これは…俺が悪かった…」彼は後悔の念と恐怖で声をつまらせた。イシェは彼を励ますように微笑みを浮かべた。「大丈夫よ、ラーン。私たちは一緒に乗り越えられる」
テルヘルは冷静に状況を判断し、近くの壁に刻まれた古代文字を指差した。「あの文字…何か意味があるはずだ！」
イシェは文字を凝視した。そして、あることに気づいた。「これは…古代の魔法解読術だ！この文字列で罠を解除できるかもしれない！」
彼女は必死に記憶をたどった。かつて図書館で見つけた古い書物に、このような解読術が記されていたことを思い出した。イシェは慌てて文字列を唱え始めた。彼女の言葉には不思議な力があり、塔の空気を震わせていた。
そして、光は消えた。矢も止まり、塔は静寂に包まれた。ラーンとテルヘルは息を切らし、イシェを見つめていた。彼女は微笑み、小さく頷いた。