ビレーの朝焼けが、ラーンの寝顔を撫でた。まだ眠りの中にいるようなイシェの姿を見つめながら、彼はベッドから這い上がると、窓の外へと目を向けた。今日はテルヘルとの約束の日だ。遺跡探索への期待と、どこか不安な微睡むような感覚が、彼の胸を締め付けようとした。
「イシェ、起きろ！」
ラーンの叫び声でイシェは目を覚ました。眠ったままの顔は、まるで幼い頃の無邪気さを思い出させるような、穏やかな表情だった。
「また遺跡か…」
イシェはため息をつきながら、ベッドから起き上がると、近くの棚から水筒を取り出した。ラーンがすでにテーブルに朝食を広げていた。粗末なパンとチーズ、それに水だけだが、彼らにとっては贅沢な食事だった。
「今日の遺跡は、あの『眠れる巨人の墓』だそうだ」
テルヘルが口にした言葉は、いつも以上に重みがあった。それは、かつて大災害を引き起こしたと伝えられる巨大な遺跡であり、その内部には危険な罠が仕掛けられているという噂があった。
「危険だと言われているけど、報酬がいいんだろ？」
ラーンはいつものように楽観的な口調で言ったが、彼の目は少しだけ曇っていた。イシェは、彼とは違い、テルヘルの言葉に緊張を感じていた。
「何か事情があるのか…」
イシェの視線を感じたテルヘルは、静かに頷きながら口を開いた。
「この遺跡には、ヴォルダンが求めているものがあるらしい。私がそれを手に入れるためには、あなたたちの力が必要だ」
彼女の言葉に、ラーンとイシェは互いに顔を合わせた。彼らは、テルヘルの復讐を知っていた。ヴォルダンとの戦いは、彼女にとって避けられない運命だった。
「わかった。やろう」
ラーンの答えは決然としたものだった。イシェも、彼の手を取った。彼らは、共に危険な旅へと踏み出そうとしていた。そして、その背後には、微睡むような影が伸びていた。それは、彼らの未来を覆い隠す、巨大な闇の予兆だった。