ラーンが巨大な石の扉を押す。埃っぽい空気が充満し、扉は重々しく軋む音を立てて開いた。その先に広がるのは、崩れかけた石造りの通路だった。イシェが懐中電灯を点け、薄暗い通路に光を当てると、壁には幾何学的な模様が刻まれていた。「またか…」イシェはため息をつきながら、ラーンの背後についていった。
「よし!今回は絶対何かあるぞ!」ラーンは目を輝かせ、興奮気味に先へ進もうとする。いつも通り、彼は計画性のない行動に出ようとしていた。イシェは深く息を吸い、冷静さを保つために努めた。「待て、ラーン。まずは周囲を確認しよう。」
テルヘルは二人がやり取りをしている横で、石の壁を指で撫でている。「この模様…」彼女は目を細めながら呟いた。「ヴォルダン帝国の紋章に似ているが…」
イシェはテルヘルの言葉に耳を傾け、ラーンの無計画さを一時的に忘れて、壁の模様を観察した。確かに、ヴォルダンの紋章と酷似している部分があった。だが、何か違うものを感じた。「この紋章…どこかで見たことがあるような…」
その時、イシェは過去の一瞬を思い出した。幼い頃に、祖父が昔話として語っていた話だ。遠い昔、ヴォルダン帝国とエンノル連合の前身となる小国家群が激しい戦いを繰り広げた時代のこと。その戦いの末、両者は休戦協定を結んだという。しかし、その協定は脆弱であり、常に破綻の危機にあった。そして、ある時、両国に共通する謎の古代文明の遺跡が出現した。
祖父は、その遺跡が両国の争いを終結させる鍵になると信じていた。なぜなら、遺跡には両国の繁栄につながる秘宝が眠っているという伝説があったからだ。しかし、遺跡は強力な魔力によって封印されており、誰にも開くことができなかった。
イシェは深く考え込んだ。「もし、この遺跡が祖父の言う古代文明のものだったら…」その瞬間、彼は循環の存在を強く意識した。歴史は繰り返す。争い、休戦、そして再び争い。そして、その全てを繋ぐ鍵となる遺跡。
ラーンが興奮気味に「何か見つけたぞ!」と叫びながら、通路の奥へと走り去った。イシェは一瞬迷った後、テルヘルの視線を感じて、彼らに続くことを決めた。
循環から逃れることはできないかもしれない。しかし、イシェは、この循環の中に新たな可能性を見出すことができるかもしれないと感じた。