「よし、今日はあの崩れかけた塔だな!」
ラーンが拳を握り締め、目を輝かせた。イシェはため息をつきながら地図を広げた。
「また、あそこ? ラーン、あの塔は何度探索したかわからないだろう。何も見つからなかったじゃないか」
「いや、今回は違うって気がするんだ! 何か、感じるんだよ!」
ラーンの言葉に、イシェは苦笑した。いつもそうだった。ラーンの直感が当たったこともあったが、ほとんどの場合は空振りだった。
「わかった、わかった。じゃあ、準備を始めよう」
二人が道具をまとめ始めた時、背後から声が聞こえた。
「今日はいい場所を選んだわね。あの塔には秘密があるのよ」
テルヘルが微笑みながら近づいてきた。彼女の鋭い目はラーンとイシェを交互に見つめていた。
「秘密?」
ラーンの耳がぴくっと動いた。テルヘルはいつも謎めいた言葉を口にするが、今回は何か違う気がした。
「ええ、秘密よ。そして、その秘密は君たちを大穴に導いてくれるかもしれない」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。大穴とは、遺跡探索者にとって最高の目標だった。伝説的な財宝が眠ると言われ、多くの探検家が命を落としてきた場所だ。
「どうすればいいのか?」
ラーンの声が震えていた。
テルヘルはニヤリと笑った。
「それは、あの塔の最上階にある部屋で明らかになるわ」
三人は塔に向かって歩き始めた。イシェはラーンの興奮を抑えられず、テルヘルの言葉を疑う気持ちと、どこか期待する気持ちの狭間で葛藤していた。
塔の内部は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。崩れかけた階段を慎重に登っていく。
「あの日、私は全てを失った」
テルヘルの声が、不意に響いた。ラーンとイシェは驚いて彼女を見た。テルヘルは今まで自分の過去について語ることはなかった。
「ヴォルダンが全て奪っていったのよ。家族も、家も、そして、私の未来も…」
彼女の目は涙で潤んでいた。
「だから、私は復讐をするの。ヴォルダンを滅ぼすために」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは言葉を失った。今までテルヘルがヴォルダンへの憎悪を抱いていることは知っていたが、その深さを知ることはなかった。
塔の最上階にたどり着いた時、三人は巨大な石扉の前に立ち止まった。扉には複雑な模様が刻まれており、何か古代の力を秘めているように見えた。
「ここだ…」
テルヘルが扉に触れた瞬間、部屋に光が差し込んだ。壁一面に描かれた壁画が輝き出し、そこに描かれていたのは、かつてこの地を支配した王国の栄華と、その滅亡の物語だった。そして、壁画の一角には、ある人物の姿があった。
「後見人…」
テルヘルは呟いた。その人物は、ヴォルダンに全てを奪われた彼女の過去を知る唯一の人物だった。
ラーンとイシェは、テルヘルの過去を知り、彼女が抱く復讐の念に触れることで、自分たちの夢である大穴よりも大きな何かを見つめることになった。