「おい、イシェ、今日はどこ行くんだ？」ラーンが寝起きの目をこすりながら言った。イシェはいつものように、簡易な朝食を黙々と食べている。
「東の方角の遺跡らしい。テルヘルが情報を仕入れてきた。今回は特に危険だそうだが、報酬も高い」
ラーンはうなずき、剣を腰に引っ掛ける。「危険ならいいんだ！ 冒険だぞ！」
イシェはため息をついた。ラーンの無計画さは相変わらずだ。しかし、彼のその熱意にはどこか惹かれるものがある。
「準備はいいか？」テルヘルが鋭い目で二人を見下ろしていた。彼女はいつも冷静沈着で、行動力があった。
遺跡は深い森の中に隠れていた。朽ちた石造りの門が崩れ落ち、周囲を蔦が覆っている。
「ここか…」イシェがためらうように言った。「何か…不気味だ」
ラーンは笑い飛ばす。「そんなの気にすんな！ さっさと中に入ろうぜ！」
テルヘルは静かに頷き、先頭を歩いた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。壁には古代文字が刻まれており、何かの警告を投げかけているようだった。
「ここは…」イシェの足取りが止まった。彼女の視線は、奥深くまで続く暗い通路に注がれている。
「何かを感じたのか？」ラーンの声が響いた。
イシェは言葉を失った。彼女は自分の感覚を信じて疑わなかった。あの通路には、何か邪悪なものが潜んでいるような気がしたのだ。
「行くぞ」テルヘルが力強く言った。彼女の言葉に促され、ラーンとイシェも仕方なく足を進めた。
通路の奥深くで、彼らは巨大な石の扉を発見した。扉には複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように脈打っているようだった。
「これは…」ラーンの表情は硬くなった。「何か強力な力が込められているようだ」
テルヘルはゆっくりと扉に触れた。「ここは律速に囚われた場所だ」彼女は言った。「この扉を開けば、恐ろしいものが解き放たれるだろう」
ラーンは驚いて振り返った。「律速…？ 何を言っているんだ？」
イシェの顔色は蒼白になっていた。「ラーン…僕たちがここに来るべきではなかった…」
テルヘルは冷静に言った。「しかし、もう後戻りはできない。扉を開けなければ、私たちの目的は達成できない」
彼女の言葉に導かれるように、ラーンの手は扉に触れた。その時、空気が激しく渦巻き、石の床が震え始めた。