薄暗い酒場の入り口でラーンがイシェの顔を探した。いつものように遅刻か、とため息をつこうとしたその瞬間、イシェが慌ただしく駆け込んでくる。
「ごめんごめん！寝坊しちゃって…」
イシェは息を切らしながら謝り、テーブルに崩れ落ちた。ラーンの眉間にしわが寄った。
「今回はテルヘルとの待ち合わせだぞ。時間厳守が基本だろう？」
イシェは小さくうなずき、テーブルの上にあった水を一口飲んだ。「わかった、わかった…でも、今日は本当に急いでたんだ。あの遺跡の調査結果を整理してて…」
ラーンはイシェの言葉を遮り、立ち上がった。「いいから、もう準備はいいか？テルヘルが待ってるぞ」
二人は酒場を出ると、夕暮れのオレンジ色の光に染まる街並みを歩いていった。待ち合わせ場所は、いつもとは違う場所だった。大通りから離れた路地裏の古い建物の一室だ。テルヘルが選んだ場所だと、イシェは思った。
「何か用事でもあったのかな？」とイシェが呟くと、ラーンは首をすくめた。「知らねえよ。ただ、テルヘルはいつもより真剣な顔をしていたぞ」
路地裏の建物に着くと、重厚な扉を開ける前にラーンの耳に不自然な音が届いた。かすかな足音だった。誰かが待機しているのか？ラーンはイシェに視線で合図し、ゆっくりと扉を開けた。部屋の中は薄暗く、窓から差し込む夕陽の光が埃を舞わせていた。
部屋の真ん中にテルヘルが立っていた。いつものように黒装束を身にまとい、鋭い目つきで二人を見つめていた。彼女の表情はいつも以上に硬く、何かを伝えたい様子だった。
「遅かったな」
テルヘルは低い声で言った。ラーンの視線を感じたのか、彼女は少しだけ視線を逸らした。
「今日は重要な話がある。お前たちにも…」
テルヘルの言葉が続かないうちに、突然の足音が廊下から響き渡った。誰かが近づいてくる。
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。何かが起こる予感がした。