「よし、今回はあの崩れかけの塔だ。噂によると地下に何かがあるらしいぞ」ラーンの声はいつもより高かった。イシェは彼の興奮を抑えきれず、眉間に皺を寄せた。「また噂話か？ そんなものに惑わされずに、ちゃんと計画を立てないと…」
「計画？ 何をそんなに堅苦しく言うんだい？ 見つけたもの勝ちってやつだぞ！」ラーンの言葉に反論する気力はイシェにはなかった。テルヘルはいつものように二人を見下ろすように微笑んだ。「今回は私が計画を立てる。あの塔の構造図を手に入れたのだ。地下深くにあるという遺跡の入り口、そこへたどり着く道筋が記されている」
「わっ、マジか！ テルヘルさん、お前って本当にすごいな！」ラーンの目は輝き、イシェはため息をついた。「でも、あの塔はヴォルダン軍が以前調査した場所じゃないのか？ 彼らの痕跡が残っているかもしれないぞ…」
「心配する必要はない。私はすでに手配をした」テルヘルは自信に満ちた声で言った。「ヴォルダンの兵士たちがかつてその塔を調査し、何も見つからなかったという記録がある。あの遺跡は、彼らには見つけられなかったのだ」彼女は静かに付け加えた。「しかし、私にとっては違う」
ビレーを出発した三人は、荒れ果てた山道を進んだ。かつてヴォルダン軍が歩いた道だ。その痕跡は今も残っていた。イシェは不安を感じた。ヴォルダンの影は深く長く、彼らの存在を消し去ろうとするかのように広がっていた。
崩れかけた塔の前に立つと、ラーンは興奮を抑えきれずに叫んだ。「よし、行くぞ！ 大穴だ！」イシェは彼の熱意に圧倒されながらも、テルヘルの計画に従うことにした。塔の内部は暗く、埃っぽかった。壁にはヴォルダン軍の紋章が刻まれており、かつての彼らの支配を物語っていた。
彼らは地下深くへと続く階段を慎重に下りていった。階段の途中でイシェは、壁に刻まれた奇妙な記号を見つけた。「これは…？」彼は戸惑いながら記号を指さした。「見たことのない文字だ…」
テルヘルは冷静に言った。「これは古代文明の文字だ。この遺跡は、ヴォルダンが征服しようとしたよりもずっと古い歴史を持っている」彼女は鋭い目で記号を見つめた。「そして、この遺跡には、ヴォルダンが想像もできないほどの力がある」
ラーンの興奮とイシェの不安とは対照的に、テルヘルの目は冷酷な光を放っていた。この遺跡は単なる財宝の源ではない。ヴォルダンへの復讐を果たすための鍵なのだ。そして、その鍵は、征服された古代文明の秘密に眠っている。