ビレーの酒場にはいつもより多くの男たちが詰め掛けていた。ラーンとイシェがいつものようにテーブルに腰掛けようとした時、テルヘルが手を上げた。
「今日は少し場所を変えよう」
彼女の声はいつもより低く、どこか落ち着きのないものだった。「あの遺跡について、話を聞きたいことがある」
ラーンの顔色が変わった。「あいつらの話か? あれは触るなと言っただろう!」
イシェはラーンを制止する。「落ち着いて。テルヘルが何を言いたいのか聞いてみようよ。」
テルヘルはテーブルに広げた地図を指さした。「あの遺跡は、ヴォルダンとの国境に近い。かつてそこにあったとされる大都市の跡だ。そこには、彼岸へと続く扉があると噂されている」
ラーンの顔色がさらに険しくなった。「そんなばかな…」
イシェはテルヘルの目を見つめた。「なぜ、そんな場所を調べているのですか?」
テルヘルは静かに言った。「私はヴォルダンに全てを奪われた。復讐を果たすために、彼岸の力を手に入れなければならない」
ラーンとイシェは言葉を失った。彼らはいつも遺跡から遺物を持ち帰ることで生計を立てていたが、彼岸の世界とは全く別の次元の話だった。テルヘルは続けた。
「あの遺跡には危険がいっぱいだ。だが、もし私が彼岸の力を手に入れることができれば、ヴォルダンに立ち向かうことができる。そして、お前たちの未来も守ることができる」
イシェはラーンをじっと見つめた。「どうする? ラーン」
ラーンの目は揺らぎ、しばらく沈黙が続いた。そして、彼はゆっくりと頷いた。「わかった。やってやる」