ラーンが巨大な石の扉をこじ開けようとするその瞬間、イシェは背筋を凍りつかせるような感覚に襲われた。いつもなら冷静さを保っているはずのラーンの瞳が、どこか狂気じみた輝きを放っていた。
「おい、ラーン、ちょっと待て!」
イシェの声は届かない。ラーンの体はまるで別の誰かの意志に支配されているかのように、扉を叩きつけた。石塵が舞い上がり、彼らの視界を一瞬遮った。扉が開いた瞬間、そこに広がる光景にラーンは声を上げた。
「おおっ!こんなの見たことあるのかい!?イシェ、見てみろよ!」
それは、かつて栄華を極めた文明の遺跡だった。壁には複雑な模様が刻まれ、床には金や宝石が散りばめられている。しかし、イシェはラーンの興奮と違うものを感じた。空気が重く、どこか不気味に静まり返っている。そして、どこからか聞こえてくる微かな囁きのような音。
「ラーン、ちょっと変だぞ…」
イシェの言葉にラーンが振り返った時、彼の顔には狂気じみた笑みが浮かんでいた。
「変?いや、これは大穴だ!俺たちの大穴だ!」
ラーンの目は、まるで何か別のものに取り憑かれているように輝いていた。イシェはラーンの背後に立つテルヘルを見て助けを求めたが、テルヘルはただ冷酷に微笑んで言った。
「彼の心はすでに影響を受けている。もう戻らないでしょう。」
イシェは絶望した。ラーンは、遺跡の謎を解き明かすのではなく、その力に飲み込まれていくのだ。そして、彼にはイシェが止められる気がしない。