ビレーの朝焼けは、錆びた赤と真鍮色の空に染まり、遠くの山々に影を落としていた。ラーンが粗末な宿屋の窓から顔を出し、深い息を吐いた。イシェはすでに準備を終えており、静かにテーブルの上で地図を広げていた。
「今日はあの遺跡だな」イシェは指を地図の特定の場所に置いた。「テルヘルが言うには、そこにはかつて王家の墓があったらしい。装飾品や宝石が眠っている可能性もある」
ラーンはイシェの言葉に耳を傾けながらも、視線は外の世界に向いていた。ビレーの街並みがまだぼんやりと霞んでおり、空の色が徐々に青みに変わっていく様子は、まるで巨大な絵画のようだった。彼はいつもこの街を見渡す時、どこか胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
「準備はいいか？」イシェの声でラーンの意識が戻ってきた。「今日はテルヘルが特に厳しそうなんだ」
ラーンはうなずき、腰に剣を携えて宿屋から出て行った。外の世界はすでに活気に満ちていた。市場の喧騒が聞こえ、人々の話し声が行き交い、色とりどりの布地が風に翻っていた。
テルヘルは遺跡の入り口で彼らを待っていた。彼女の黒いコートに身を包んだ姿は、周囲の鮮やかな景色の中で特に際立っていた。彼女はラーンとイシェに curt な挨拶を交わし、遺跡へと続く暗い洞窟に向かって歩き始めた。
洞窟内部は湿気で冷たく、石造りの壁には苔が生えていた。足元には不安定な石畳が延びており、一歩一歩が慎重を要した。ラーンの視界は暗闇に慣れるにつれて少しずつ鮮明になっていった。
「ここからは注意しろ」テルヘルが低い声で言った。「遺跡には罠が仕掛けられている可能性がある」
イシェは小さくうなずきながら、周囲を警戒し始めた。彼女はいつも冷静沈着で、危険な状況下でも冷静さを失わなかった。ラーンとは対照的に、彼女は常に計画を立て、リスクを最小限に抑えることを心がけていた。
洞窟の奥深くには、かつて栄華を誇った王家の墓への入り口があった。壁には繊細な彫刻が施され、天井には色あせた frescos が描かれていた。宝石が埋め込まれた金色の棺が安置されている様子は、かつての富と権力の象徴だった。
「ここに眠っているのは、古代ヴォルダン王の妻だ」テルヘルは静かに言った。「彼女の墓からは貴重な遺宝が出土すると噂されている」
ラーンの目は輝き、彼は興奮を抑えきれなかった。ついに大穴が見つかるかもしれないという希望に胸を躍らせていた。イシェはそんな彼を冷静に見つめ、どこか懐疑的な表情を浮かべていた。彼女はテルヘルの言葉を信じながらも、何か裏があるのではないかと疑っていた。
「では、探検を始めよう」テルヘルは言った。そして、三人は王家の墓へと足を踏み入れた。
洞窟の奥深くで、色とりどりの光が揺らめいていた。それは古代文明の残した秘密であり、同時に彼らの運命を左右する鍵だった。