「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。イシェ、地図を確認してくれ」
ラーンが豪快に笑って言った。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の肩越しに古びた羊皮紙の地図を見つめた。
「またしても危険な場所じゃないか。あの塔は以前から崩落の危険が指摘されているわ。特に西側の壁は…」
「大丈夫大丈夫!俺たちならなんとかなるさ。それにほら、テルヘルさんが言ってたじゃないか。あの塔には古代の武器が残されているって」
ラーンは意気揚々と剣を構えた。イシェはため息をつきながら、地図をしまうと小さな袋からロープを繰り出した。
「そうだな。古代の武器だ。一体どんな形をしているのか…?」
テルヘルが呟いた。彼女はいつもより静かで、鋭い視線を塔に向け続けている。ラーンの無邪気な笑顔とは対照的に、彼女の表情は影に覆われていた。
塔の中は薄暗く、埃が舞う。崩れかけの石畳を慎重に進むと、壁一面に奇妙な模様が刻まれていた。イシェは手を伸ばして触れてみた。冷たい石肌に、どこか不気味な感覚が走った。
「これは…何か意味があるのだろうか?」
「さあ知るか。古代人たちが何を考えていたか、俺にはさっぱりわからん」
ラーンがそう言うと、先へ進むため壁をよじり上がった。イシェは彼を見つめながら、胸の中で小さく祈りを捧げた。
塔の最上階。そこには巨大な石棺が鎮座していた。その上に置かれた古代の書物に、テルヘルは目を輝かせた。
「見つけた!ついに…!」
彼女は書物のページをめくろうとした瞬間、石棺の蓋が突然動き出した。轟音と共に石棺が開き、そこから漆黒の影が立ち上った。
ラーンは剣を構え、イシェは後ずさった。テルヘルは書物を取り落とすように、恐る恐る影に近づいていった。
「これは…何だ?」
彼女は震える声で呟いた。影はゆっくりと形を整え始め、やがてその姿が明らかになった。それは、かつての王の姿をした鎧だった。しかし、その目は空洞で、全身から悪夢のような瘴気が漂っていた。
「一体…」
ラーンの言葉も途絶えた。影の王はゆっくりと動き出し、彼らに向かって手を伸ばした。その手には、巨大な剣が握られていた。