「よし、今回はあの崩れかけの塔だな」
ラーンがそう言いながら、イシェに目を向けると、いつものようにため息をつかれていた。
「また大穴だなんて、そんな簡単に見つかるわけないでしょう」
イシェは眉間に皺を寄せ、地図を広げた。「遺跡の記録によると、あの塔はすでに何世紀も前に崩壊し、内部は危険な罠で溢れていると記されているわ」
ラーンの肩を軽く叩きながら、テルヘルが口を開いた。「心配するなイシェ。今回は私が案内をする。この塔にはかつてヴォルダン軍が隠したという噂の宝庫があるらしい。あの強靭なヴォルダンの軍人たちが守るには値するほどの価値のあるものだ」
ラーンの目は輝き、イシェは諦めの表情を見せた。テルヘルは満足げに微笑んだ。「では準備を済ませて、出発しよう」
ビレーの街を背に、3人は崩れかけた塔へと向かった。塔の入り口は崩落し、内部へ続く階段も一部が消失していた。ラーンは軽々と岩をよじ登り、イシェは慎重に足場を確認しながら続いた。テルヘルは後ろから2人の動きを鋭い目で追っていた。
「ここからは気をつけろ」
テルヘルが警告を発するや否や、床板が音を立てて崩れ落ちた。ラーンは素早く身をかわしたが、イシェはバランスを崩しそうになった。
その時、ラーンの腕がイシェの腰を抱きしめ、彼女を安全な場所に引き上げた。彼の筋肉は強靭に張り詰め、イシェの体を守り抜いた。
「大丈夫か？」
ラーンが心配そうに尋ねると、イシェは顔に熱い血潮を浮かべながら頷いた。
「ありがとう…」
イシェはラーンの強靭な腕の中で、改めて彼とこの冒険を続ける意味を認識した気がした。